渡り鳥 汝は何処に向かうのか

空烏 有架(カラクロアリカ)

それとも何処に帰り着くのか

さだめより結ぶ想いぞ堅ければ

踏み出す一歩は不帰かえらずの道


髪おどる背中にふるさと映しゆく

笑うも泣くも己で選べ


伴なくばつまらぬ旅だ

敵あらば苦しい旅だと誰かが言った


知るほどに触れるほどにも思い知る

己は知らず触れてもおらず


離れても空の色は変わらないのに

路傍の花は知らぬ顔ぶれ


舌よりも身振りの指がものを言う

通じぬ言葉ふれあう心


鮮やかな衣装

絹糸をまとう誰かにまた恋をした


舌で聞く異国の言葉は甘いのに

後にはいつも塩味がする


見送りの笑顔を見るのがやるせない

ここには二度と戻らないのに


喧騒の中ほど孤独の味がする

すり寄る仔猫もそれが目当てか


朽ち果てた遺跡が語る

いにしえの昔もここで泣く人がいた


命さえ絶えた枯野にひとり寝る

野獣の声が今宵の布団


三日月よ己を慰めるなかれ

木枯らしだけが弱音を聞いた


さて行かむ 朝露光る丘越えて

枯れ葉踏みしめ まだ見ぬ異郷くに


海鳥と潮騒が歌う丘の上

地の果てにしては空が明るい


船乗りが必ず帰ると信じてか

白亜の塔に光は絶えじ


行く先も知らずに漕ぎ出した舟は

ノスタルジーの波間に揺れる


願わくば最後にまぶたを閉じる時

ゆかしき郷里くにの歌を聴きたい


ゆく雲に我が身を重ねて三千里

行けども行けども星に届かず


渡り鳥 汝は何処に向かうのか

それとも何処に帰り着くのか

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