私がこの作者様を知った最初の作品は、この作品の派生元「幸福の国の獣たち」でした。
そちらを読んで、作品の骨子として走る世界設定、地理や宗教や民族といったまさに「世界」がしっかりと作られているさまに衝撃を受けたものです。
当時私がそちらに書いたレビューが、こんな感じなのですが。
https://kakuyomu.jp/works/16816452218854089964/reviews/16816452219769284718
本作「雪を解いて春を招(よ)べ」においても、その物語を支える歴史や文化がどっしりと根ざしています。残酷なほどに。
物語の舞台、複数の民族によって成り立つ北国ハーシにおいて、その民族間には格差があり、差別があります。
もしもあなたがそういったお話に向き合うのに大きなエネルギーを必要とするのならば、読むことをお勧めはしません。私は読むことができましたが、それはすべての人が読めることを保証しませんから。
そのうえで、この物語で登場人物たちが向き合っているのは個人個人であり、同時に過去と未来の歴史でもあります。
部族長の息女子息という立場である主人公とライバル兼相手役にとって、民族間の対立は彼女らの事情から決して切り離せるものではありません。
それでも彼女らは、その歴史の重みを背負わされるのではなく、みずからの物語として牽引し続けるのだろうという、そんな願望が読後の私の心の中にありました。
(「願望」という言葉の選択は、私個人のエゴによるものです。「信じる」という言葉は「みずからは責任を負わない」という態度をはらむ懸念があり、一方でフィクションの登場人物に対して私が取れる責任などありはしないので)
楽しいだけの物語ではありません。
けれど私は、このお話を読んで、よかったと思います。
彼女らのゆく先を、信じることはしませんが、それでも思えば願い祈ってしまいます。幸せであり続けてほしいな、と。