襲来した鬼人の軍勢によって滅ぼされた融(ロン)という小国がある。その国の末の王子であった牒雅鳳(ディーヤーフォン)は辛くも命長らえ、13年を経て力を貯えてきた。そしてついに、奪われた故郷の奪還と復讐を成さんと踏み出したのだが——彼はその旅路で運命の女と出逢ってしまう。それが彼の命を長らえさせた鬼人の長の愛妾、麗花(リーファ)だと気づかぬままに。
そうです。冒頭からこじれているのです。愛した女性がにっくき仇の妾で、生き恥を押しつけてきた張本人。でも彼の命を救って復讐の機会をくれた恩人でもあるわけですから。それに、なぜ麗花さんが牒雅鳳さんと「ただの女性」として再会したのかも謎ですよね。
本作最大の魅力は各々の関係性を含めた“キャラクター像”の完成度。彼らがままならない設定をしかと負っているからこそ、復讐劇というメインストーリーもまたシンプルに成り下がることなくかき乱されて、先の見えないドラマとして浮き彫られるのです。
彼らが辿る先に待つものは幸か不幸か? 見守って参りましょう。
(「これぞ王道! 貴種流離譚!」4選/文=高橋 剛)