140字小説まとめ

むこねーさん

140字小説#1〜#5

#1

【ウワサをすれば】


優雅な午後のティータイムに来訪者。回覧板を持ってきた隣の田中さんの奥さんは、本当によく喋ること喋ること。


「ここだけの話なんだけど、402の渡辺さんの旦那さん、不倫してるかもなんだって。」


 私はその時の動揺を隠せていただろうか。渡辺さんの旦那さんと関係を持っているのは、私だった。



#2

【初恋オルゴール】


「これ壊れてるな。」


部屋から出てきた小さなオルゴールは、小学校の卒業記念で貰った物だ。ネジを巻くと歯抜けたメロディが鳴る。


「俺もうそれどっかいった。」


「思い出した。お前これ1組の美久ちゃんと交換してただろ!お前のやつは俺が欲しかったのに。」


「言えよ。俺もあげたかったよ。」



#3

【エンドバースデー】


「大人になんかなりたくない。」


 君の口癖。大人は汚い。平気で嘘を吐き、君を傷つけ搾取した。


「私もそんな風になっちゃうのかな。」


 傷だらけを心を抱きかかえ、怯える君。でも大丈夫。君を汚い大人になんかさせない。大人になる前の綺麗なままの君を、僕が。ハッピーバースデー。さよなら。



#4

【流れる】

「え、お前また知らない男としたの?」


「そういう流れだったからね。」


「お前流されすぎだよ。」


「流されてるんじゃなくて、自分から流れにいってるの。」


「…俺には流れてくれないくせに。」


「流れて終わりにしたくないからね。」


「どういうこと?」


「そういうとこだよ。」



#5

【姫鏡台】


幾度鏡を覗き込めど映るのは醜い女の顔貌。これではいけない。こんな姿ではいけないのだ。繰り返し顔に筆を走らせ、目尻を描き足し紅を挿す。何れ顔を見るのが怖くなり、金魚鉢を投げつけ鏡を割り、その破片を頬に当てる。ここを切れば、美しくなれるかしら。誰かから愛されるかしら。私が美しい者なら。


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140字小説まとめ むこねーさん @muconee

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