恋を知るために私たちは600回キスをした
めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定
第1話 1回目~恋を知らない透明なキスの約束~
初めてのキスはただ唇に触れるだけだった。
山に面した校舎裏。
新緑生い茂る人気のない広場で私たちは口づけを交わした。
一瞬だけ柔らかな感触に包まれて、特に甘い味はしなかった。
互いに顔が真っ赤になるほどの恥ずかしはある。
けれど拍子抜けした感想が胸の中に広がったのも事実だ。
当たり前だけどキスで頭が爆発したり、気絶したりすることはない。
ちょっぴり耳年増なお年頃の新中学生。
行き過ぎた憧れと神聖視。
始める前の意気込みが強すぎたせいだろう。
キスしただけで大人になれる、なんてことはありはしない。
そんな当たり前のことを知ることが大人への一歩かもしれない。
「なんか気恥ずかしいね。摩耶」
「うん。でも千早となら毎日でもいいかも」
「そう? なら話していた通り、これから学校ある日は放課後に毎日キスする?」
「そうだね」
そんな軽い会話で私――四宮摩耶と三条千早はキスの約束をした。
学校がある日の放課後に一度だけの口づけ。
理由は中学生になって大人ぶりたかったのと、初めてクラスが別れたから。
私と千早は幼稚園からの幼馴染でずっと同じクラスだった。
学校で毎日顔を合わせ、共に行動し、休日も一緒に遊ぶ仲だった。
しかし、もう中学生になった。
新しい学校でクラスも別。
いつまでも二人だけの閉じた交友関係ではダメだとわかっている。
だから校内ではあまり顔を合わせずに互いのクラスで頑張ろうと決めた。
……決めたのだが、やはり互いに特別でいたかった。
二人だけの秘密の関係。
だから恋と大人への憧れを込めた口づけを交わす。
このときの私たちは似ていたと思う。
背は同じくらい。髪の長さも肩まで。
服装も髪型も髪の長さも合わせていた。
一緒にいて姉妹と間違われるのが嬉しくて。
でも互いにまだ恋心などはない。
だって私たちはまだ恋を知らなかったから。
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