第3話 200回目~色は交じると濁っていく~
二百回目のキスは少し乱暴だった。
静かな図書室に少しだけ音が響く。新学年が始まったばかりなので他に人が誰もいないのは幸いだった。
目の前には不機嫌そうな千早の顔。
理由はわかっている。
また同じクラスになれなかったからだ。
私たちは中学二年生になった。
また近藤さんと同じクラスになれたことは心強い。
一年生の前半は浮きがちだった私だが、千早の助力もあって近藤さんたちと仲良くなれた。クラスに馴染めたのだ。
そんな私と近藤さんの縁を結んでくれた千早はまた別のクラス。
仲のよかったクラスメートともバラバラになったらしい。
「……摩耶と一緒がよかったのに」
「私も千早ちゃんとクラスメートになりたかったよ」
「だよね!」
千早はまた背が高くなり、もう私とは顔一つ分違う。
私が縮んだのではない。
……ないのだが、私の背が女子の中でも低いことはそろそろ認めなくてはいけないのかもしれない。現実は残酷だ。
今年こそは同じクラスになりたかった。
私の中にその想いはあった。
千早のように子供っぽいすね方はしないけど。
もっとも千早が小学校の頃のように振舞うのは私の前だけらしい。
近藤さんがそう言っていた。
プレイスタイルと違って独占欲が強いとも。
どういう意味かわからなかったので、首を傾げて近藤さんに質問したら「摩耶姫様はそのままでいて」と苦笑された。
解せぬ。
「女子バスケ部の二年生エースである千早ちゃんは近藤さんと一年生をナンパしに行くんだよね?」
「新入生の勧誘ね! ナンパ言わない!」
「でもおモテになるのでしょ?」
「あまりキャーキャー言われるのは苦手なんだけどね」
千早と近藤さんはモテる。
同性にモテる。
その人気に目をつけた三年生の命令で、男子の制服を着て新入生の勧誘を行うらしい。
今年の女子バスケ部は熱くなりそうだ。
ちなみに美術部は勧誘しない。
新二年生の私が部長に就任するぐらい活気がないのだ。
私が一番真面目に活動しているらしい。
最近はバスケットボールの試合の応援に行くことも多かった。
そのことを知っているのか先生からは躍動感のある絵を描くように指導を受けていた。
私の苦手分野だ。
千早をモデルに描くときはちゃんと描けるのだけど。
「では千早王子。行ってらっしゃい」
「王子言わないでよ。摩耶姫様」
「姫と呼ばれる私の気持ちを少しは味わいなさい」
「摩耶を……味わえるなら味わいたいよ」
「ん?」
「なんでもない。行ってくるね」
男装の千早を送り出す。
最後の発言はどういう意味だろうか。
私と千早の関係は変わっていない。
けれど互いに成長しているのかもしれない。
背丈以上に心が成長している。
そのズレも大きくなっている。
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