第5話 400回目~交じり合わない色~
四百回目のキスは壁ドンされた。
閉ざされた屋上のドアに向かう階段。
行き止まりの袋小路。用がないので誰も近寄らない。
不機嫌そうで。荒々しくて。不貞腐れている。
そんな千早に私は苦笑した。
ついに中学三年生。
結局、私たちは一度も同じクラスになれなかった。
「最後くらい同じクラスがよかった」
「そうだね」
「摩耶笑ってる。一度も私と同じクラスになれなくて悔しくないの?」
「悔しいというか残念ではあるのだけど」
「だけど?」
「なんとなくそんな気がしてた。それに千早ちゃんと同じクラスになれなくても、毎日顔を合わせているからね」
「まあ……そうだけどさ。同じクラスだったらこの一年がもっと楽しいのに! みたいなことはないの?」
「一年間千早ちゃんと近藤さんに挟まれて生活したら私の背も伸びないかな。……切実に」
「そういうことじゃなくて」
私は千早と同じクラスなれなかったことを安心しているのかもしれない。
なりたくないわけではない。
ただ変化が怖かった。
今でも十分近いのに同じクラスになってしまうと私たちはどうなるのだろうか。
私と千早の色はたぶん違う。
どんな色も境界があるから引き立つ。
混ざりあったら黒く濁っていく。重い色になってしまう。
「冗談だよ千早ちゃん。最後の一年間を楽しもうね。また試合の応援に行くから」
「はいはい。悲しんでいるのは私だけですよ」
「……そんなことはないんだけどな」
「摩耶?」
ただの臆病。
変化を恐れて動けなくなっているだけ。
千早の顔をじっと見上げる。
見上げるだ。
どんどん千早は成長していった。
背はあまり伸びなかったが私も成長した。
もう小学校の頃の二人ではない。
その変化が私は恐ろしい。
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