第6話 500回目~初めての喧嘩~
「どうして別の高校に進学することを言ってくれなかったの?」
「……ごめん」
「ごめんでわかると思うな」
季節は秋。
三年生は部活を引退して、高校受験シーズンの真っただ中だ。
千早はどこに進学するのか。
進学先は千早に合わせよう。
そんなことを呑気に考えていた。
いや……それは嘘。
私は現実から目を逸らしていただけ。
千早と違う高校に進学する。
千早と別れる。
可能性を考えないようにしていた。
その結果が千早のスポーツ推薦で遠くの高校に通うことになった。
強豪校でもないのに全国大会まであと一歩のところまで迫ったのだ。
夏休みにはスポーツ推薦の話が上がっていたらしい。
「ずっと言おうとは思っていた。……でも」
「でも?」
「……摩耶の口からスポーツ推薦を受けるべきと言われるのが怖かった」
泣きそうな顔でそう言われたら私からは何も言えない。
ずるい。
相談された場合の私の答えを千早は確信している。
そして間違っていない。
私は千早のスポーツ推薦を後押ししただろう。
自分の中に芽生えた気持ちを諦める決断を下して。
身体が自然と動いていた。
私からするのはこれが二度目。
クラスが別れると知った入学式。
初めてのキス以来だ。
夕暮れの教室で。
私は五百回目のキスをした。
ちゃんと一人で決断した親友に対して。
「……千早ちゃんのバカ」
唇を離してそのまま抱きしめる。
身長差は頭一つ分。
私の顔が千早の胸に当たる。
こちらは私の勝ち。
バカなのは私だ。
お互い成長したのに千早の心は前に進んでいて。
私は心を止めたままここまで来てしまった。
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