まだ見ぬ兄弟に捧ぐ

作詞だって執筆。小説を書くのだって執筆。求められるものに小さな違いがあるだけで、本質はさして変わらない。思いのままに、虚構にリアルを込めて、真っ新なキャンバスに叩きつける。そのお手本のような小説がこちら。正直、驚いた。気の利いた語彙を並べているわけでもない。巧みな構成力に読者を唸らせる作品でもない。それなのに、心に深い爪痕を残していく。否、奥底に眠る傷をなぞっているのかもしれない。

そのうえ本作には、ヒップホップの歌詞のような鋭さがある。私は日本のラッパー等には明るくない。代わりに知っているラッパーで表現するなら、Run DMCの『It’s Over』のような軽妙さに、Eminemの『Stan』の熱量、そこにBonez MCの『Fuckst mich nur ab』の暴力性を込めたのが本作ともいえる。とにかく底力が凄まじい。これは鍛錬で培うことのできる技術ではない。正直、羨ましくもある。この作品を見つけた人は、是非とも最後まで読んでほしい。心で深く味わってほしい。

夢を見ているか。どれくらい大きな夢なんだ。どれくらい上手くいったんだ。まだ生きてるか。明日もそこにいるか。じゃあ、また続きを聴かせてくれ、兄弟。