「それでも前を向こうとしているけど……うん。ワタシには耐えられない。これは辛い。一緒に笑えない」
文学に触れていると、こんな経験は一度もしたことがないのに登場人物に共感してしまうことがある。
「小説には、生きていると実感する痛みがなければ意味がない」タイプだろう。
ワタシは、最後まで読むまでに距離を保たなければ呑み込まれそうだった。これはキツい。なんでだろう。ワタシは、文章を読んでいるだけなのに。文字だけで、こんなにも圧迫されるのか。
エピソード9でかなり兄弟に語りかけてくるけれど、なんて言って良いかわからないよ。ごめん。でもわかるよ。誰が悪いとかじゃなくて、こればかりは悲しいよな。
作詞だって執筆。小説を書くのだって執筆。求められるものに小さな違いがあるだけで、本質はさして変わらない。思いのままに、虚構にリアルを込めて、真っ新なキャンバスに叩きつける。そのお手本のような小説がこちら。正直、驚いた。気の利いた語彙を並べているわけでもない。巧みな構成力に読者を唸らせる作品でもない。それなのに、心に深い爪痕を残していく。否、奥底に眠る傷をなぞっているのかもしれない。
そのうえ本作には、ヒップホップの歌詞のような鋭さがある。そして軽妙さ、熱量、暴力性が。とにかく底力が凄まじい。これは鍛錬で培うことのできる技術ではない。正直、羨ましくもある。この作品を見つけた人は、是非とも最後まで読んでほしい。心で深く味わってほしい。
夢を見ているか。どれくらい大きな夢なんだ。どれくらい上手くいったんだ。まだ生きてるか。明日もそこにいるか。じゃあ、また続きを聴かせてくれ、兄弟。