第6話 責任

クロノグラスの記憶から現実に戻ってくると、隣にアリスがいた。買い物から帰ってきてしまったのだろう。


「お兄ちゃん...知っちゃったのね...過去を」


アリスは怒っているように見えた。


「...うん。あの日の事全部見た。」


僕はそう返した時に、アリスは怒ってくるだろうと思った。でも実際は怒りはせず悲しそうな顔をして言った。


「...じゃあ、また自殺しちゃうの...」


「え?」


「自殺しちゃうでしょ、お兄ちゃん。お母さんを死なせた責任を感じて。」


意外な事をアリスが言った。その時僕はある事に気がついた。


「もしかして母さんの事を僕に言わなかったのも、クロノグラスを割ったのも僕に自殺させない為?」


「...うん。アリスね。辛かったんだよ、お兄ちゃんが岩に頭をぶつけて倒れた時。お母さんも死んでお兄ちゃんも死んで、アリスひとりぼっちになったかと思ったの。だから、倒れているお兄ちゃんが息をしていたと気づいた時はすごい嬉しかった」


そんな思いをさせていたのか。自分が情けなくて気が狂いそうになる。


「でも、でもね、アリス、お兄ちゃんが目を覚まして普通になった時、またお母さんの死の責任を感じて自殺しちゃうんじゃないかって思ったの。だから死んだお母さんを森に隠したり、クロノグラスを割ったりしてどうにかして、お兄ちゃんにおがあざんの事をわずれてもらおうっで!で、で、、、うわぁぁん!」


アリスは泣き出してしまった。その姿はまるで僕が目を覚ましたあの日の幼きアリスの様だった。もしかするとアリスはここ3年、幼い自分を隠してきたのかもしれない。


僕はそんなアリスを優しく抱きしめた。その時、記憶の中で母さんが僕に対して言った


生きてアリスを守ってあげて...


という言葉が頭に浮かんだ。アリスを抱きしめている僕もまた誰かに抱きしめられている、そんな気がした。


「僕はもう自殺なんてしないよ。もうあの時と違って大人になったんだ。今はアリスを守るという責任がある。」


そう言ってアリスと僕は抱き合った。


「さあ、母さんを火葬してあげよう」


「うん!」


庭に生えてる鈴蘭の香りがした。雲1つない青空の今日は、空気が乾いていて火が良く燃えそうだ。

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思い出す、そして忘れる。 かじゅぎんが @kajiyukiya

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