第4話 思い出したくない記憶
魔法省の2人組の男はこちらへゆっくりと近づいた。無言だったが1度も「僕」の目から逸らすことは無かった。それはまるで獲物を捕らえに行く虎のそれだった。「僕」は思わず後ずさりし、家の前まで下がるとドアが空いた。
「クラウス、いつまでもそこでうろちょろしないで早く森へ、、きゃあ!」
様子を見に来た母さんは魔法省の人間がいることに気づいて短い悲鳴を上げた。母さんもあの制服が魔法省のものだと知っていたのだろう。
「どうして魔法省の方々がこんなところにいるのでしょうか...」
母さんは怯えながら聞いた
「あなたがクラウス君のお母様ですか。いやはや突然お伺いしてしまって申し訳ない。なんせ来ると事前に伝えておいたら逃げてたでしょうからねぇ」
「逃げる?」
「えぇ。あ、お母様はクラウス君達の起こした事件をご存知でないのですか」
「クラウスが..起こした事件...?」
「《最後の抗う者》という犯罪グループをご存知ですか?死体に《最後の抗う者》との焼き印が押されている事件がここ3ヶ月で6件もこの町で起きてます。いずれの事件の被害者は全て国の役人、どんどん被害者の地位が高くなっています。昨日の夜、魔法省の事務次官がこの町へ寄った時に行方不明になってですね、今朝、街の水門の中で見つかりました。
で、その日の夜、クラウス君を含む5人の少年達がその水門にいた所を近所のご老人が見ていまた。」
「で、でも水門なんてよく通る場所じゃないですか。クラウス達がやったとは言いきれない。」
「お母様、残念ながらもう一つ決定的な証拠があるのです。それは殺害方法です。これらの殺人は全て禁じられている
「それは!」
母さんが話を遮った。顔は興奮して赤くなっている。チラッと僕の方を見たが、「僕」は相変わらず下を向いて目を合わせようとしない。
《最後の抗う者》。そんな言葉は初めて聞いた。本当に自分は男の言う通りかつて事件に関係しているのだろうか。そして、《死の魔法》。自分は使い方を記憶と一緒に忘れているだけで、本当は使うことができるのだろうか。使えるとしてもそんな物騒な魔法は使い道がない。
2人の会話によると僕は学校を退学になっている。僕達が人里離れた山奥に住んでいるのもそれが関係しているのだろうか。
一体記憶を失っていた過去に何があったんだ
「それは!しょうがない事なんです!実はこの町に代々伝わっている古代文書に、ごく稀に先天的に《死の魔法》を使える子が生まれると書いてあったんです!きっとクラウスもそのような子の1人で、、」
「お母様、古代の文書を信じるんですか?我が国の始祖グリフィン以前の歴史は全て間違っているって事は500年前の魔法哲学者のレブソンが証明しましたよね?学校でやったでしょ」
「あいにくお金が無くて学校は行けなかったもので」
魔法省の男2人組は顔を合わせ、微かに冷笑した。
「まあこの村に『死の魔法』を使える人はクラウス君以外に居ないので彼がやったと言うことでいいでしょう。ね?クラウス君?」
「僕」は真っ青な顔を上げて母さんの顔を見た。母さんの顔は怒っているように思えた。でも僕の事を真剣に考えて、心配もしてくれている事も分かった。そして、「僕」は辺りを見回して、家の窓からアリスが声を殺して、泣きながらこちらを眺めているを見つける。泣き声をあげないのはアリスにとっての最大の僕らへの配慮なのかもしれない。
そんな彼女らを見て「僕」は決心がついたのか、はたまた、諦めたのかやっと重い口を開いた。
「僕が、、僕達が、、殺しました」
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