第2話 希望
僕が目覚めてから2年がたった。
結局、アリスはあの日以来変わった様子は無かった。最初の内は妹を警戒していたが、誰に対しても優しい姿を見て、だんだんとアリスへの警戒心は薄れていった。次第に、あの日クロノグラスを割ったアリスの姿は僕の夢だったのではないかと思い始めた。
僕らには親は居ないみたいなので、アリスの事は僕が面倒を見た。
僕ら兄妹は森で採れる珍しいキノコや薬草を市場で売って慎ましく暮らした。色々な種類の植物が僕らの森にはあるが、特に「イナハッカ草」は中々高く売れた。その草をお茶にして毎日欠かさず飲めば寿命が伸びるんだとか。
まあそんな感じで僕ら兄妹は何とか暮らしてきた。
相変わらず僕の記憶は戻らなかったが、一つ希望が見つかった。魔法市に行った時、中古の魔法入門書が安く売っていた。そして、その本の中には《復元魔法》のやり方も載っていたのだ。それを見た時僕はこう閃いた、
「これを使えばクロノグラスを復元し、記憶を取り戻せるかもしれない」と。
それからその本を見ながら独学で魔法の練習を始めた。《復元魔法》は応用分野なので、習得するまでに1年も費やした。
そして今、僕はクロノグラスを復元させようとしている。
三年前、アリスは僕のクロノグラスを割った。三年間一緒に過ごしてきたが、なぜ優しいアリスがあんな行動を取ったのか未だに理解出来ない。
もしかすると失った記憶の中にヒントがあるのかも。
そう思いながら、僕は割れたクロノグラスの破片達に向かって《復元魔法》を唱え始めた。あの日、割れたクロノグラスをこっそり取っといたのだった。
アリスはちょうど買い物に市場へ行っているので家には僕一人しかいない。すっかりアリスは大人になってしまって家事の殆どをこなすようになった。念の為、そんなアリスの居ない時に計画を実行することにした。前のようにクロノグラスを破壊されたら困るから。
《復元魔法》を唱え終わると、見る見るうちにクロノグラスは出来あがっていった。透明のガラス瓶にはキラキラと光る金の宝石が付いていて、中にはサファイアで出来た砂時計が入っている。あの日遠目で見た姿そのままだった。
どうやって使うんだ?
僕は試しにクロノグラスをひっくり返してみた。
すると、中に入っている砂時計の砂が落ちていき、頭の中に僕の思い出が走馬灯のように流れ始めた。しかし、その思い出は、記憶を失っていた僕にとって全く知らないことであり、いきなりその情景を高速で見せられても何が起きているか理解する事は難しかった。
断片的な映像の中によく出てくる人が2人いた。1人はアリス(最初の内はこの赤ん坊がアリスだと分からなかった)で、もう1人の女性おそらく僕の母だろう。母もまた僕らと同じく痩せていて髪はぼさぼさだが、笑うととても若く見えた。
そうしている間に頭の中で流れている思い出はどんどん新しくなっていき、赤ん坊だった妹は大きくなって少女となった。若かった母も顔にシワができてきて、表情は疲れていくようにみえた。それでも時おり見せる笑顔は僕を安心させた。
そして、僕の頭の中の思い出はどんどん昔から最近へと進み、僕が記憶を失った「あの日」を通り過ぎようとしていた。
速い!速すぎる!もっとゆっくり見せてくれ!
僕がそう願うと走馬灯は本当にゆっくりになって、三年前の「あの日」の記憶が頭の中に流れ始めた。
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