思い出す、そして忘れる。
かじゅぎんが
第1話 目覚め
白。見渡す限りの白。
世界が真っ白だ。
ここは一体どこだろう。
感じない。何も感じない。
どうやら僕には感覚が無いようだ。
...いや違う、、痛い!
後頭部が尋常じゃなく痛い!意識すればするほどズキズキと痛みは増してくる。
「うわぁぁぁぁぁぁん!」
声がする。小さな女の子の泣き声。
決して不快にならない叫び声。
「うわぁぁぁぁぁぁん!
クラウスおにいちゃぁぁぁん!!」
その時、僕はなぜだかが呼ばれたような気がした。自然と目が開いて声の聞こえた方へ顔を向けた。
「お兄ちゃん!クラウスお兄ちゃん!起きたのね!」
声の方を見ると、顔をくしゃくしゃにして笑っている少女が僕の側に座っていた。顔にはまだ涙が残っていて、頬から零れ落ちた。少女は今にも倒れそうなほど痩せこけていて、ボロボロのワンピースを着ていてる。年齢は10歳くらいだろうか。
空は太陽が昇っているのにどす黒く、強い雨が降り注いでいる。どうやら僕は森の中の山道にいるみたいだ。
僕はあお向けになって倒れていて、服には血がべっとりと着いている。服は胸の部分が空いていて、泥だらけだ。
「僕を知ってるの?」
気になった事が気づいたら口に出ていた。
少女は僕の顔をじぃっと見つめる。
「お兄ちゃん、もしかして記憶を失ってるの?」
「...そうみたいだ。自分の名前も君の名前も思い出せない」
少女(恐らく僕の妹)はあっけに取られて固まった。そして悲しそうな目をした。すると、ある事を思い出したように話し始めた。
「アリスだよ...名前も忘れるなんて酷いよ...
そうだお兄ちゃん!押し入れの中に、昔、魔法市で買ったクロノグラスが入ってるよ!それを使えば記憶を取り戻せるよ!お兄ちゃんはそこで待ってて!」
そう言い終わるとすぐに、僕を置いて森の細い道を走って登って行った。多分そっちの道の先に僕らの家があるのだろう。
頭を触ってみる。少し血が出ているが痛みは少し和らいだ。なぜ頭から血が出ているかやっぱり思い出せない。いや、過去の事全て思い出せない。
僕は立ち上がり、アリスの後を歩いて追いかけた。
少し道を進むと小さな家が現れた。レンガで出来た小さな家だ。家というよりも小屋に近く、壊れかけている部分もある。その家の周りだけ木が切られていて空間が出来ている。
遠くから家の窓を覗くと、リビングでアリスが立ちすくんでいるのが見てた。リビングは暗く、小さなテーブルが一つあるだけだった。
よく見るとアリスは自分の右手を見つめ、泣いていた。右手に綺麗なガラス瓶のようなものを持っている。あれがクロノグラスか、と僕は思った。周りに付いている宝石がキラキラ光って遠くにいる僕も見とれてしまう。貧乏そうなこの家にはとても似合わない代物だと僕は思った。きっとこの家にとって大切なものなのだろう。
前に進んで妹を慰めようとしたその時だった。
パリーン
乾いた音が辺りに鳴り響いた。なんと妹は手に持っていたクロノグラスを床に向かって投げつけたのだった。
当然クロノガラスは割れてしまった。
「...え?」
一瞬何が起きたか分からなかった。恐くなった僕は来た道を引き返し、さっきまで倒れていた場所に戻った。その時僕は完全にアリスに対して恐怖心を感じていた。
「なんであの子はクロノグラスを壊したんだ...」
空っぽの頭でアリスについてあれこれ考えた。気のせいかもしれないがクロノグラスを投げつけた時、アリスは泣くのを止めて笑った気がする。
なぜ笑ったのだろうか、そしてなぜ割ったのだろうか、僕の記憶を取り戻す鍵となるクロノグラスを。
記憶喪失直後のぐらんぐらんと揺れる僕の頭じゃ、その問いに答えを出す事はできなかった。
しばらくするとアリスは泣きながら走ってきた。
「うぁぁあぁ!ごめんなざぁぁい!お兄ちゃんの...クロノグラス...つい落としちゃって割っちゃった..」
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