第8話

 結局、行くところがなかったので。男の部屋に転がり込んだ。というか女か。なんかよく分からない。見た目は完全に男なのに。


「ホテルの高級レストラン」


「微妙だったな」


 あまり美味しくなかった。高いだけが取り柄で、その高級さが、やたらとはなについた。


「何か作って?」


「図々しいな」


「見下してるから。あなたのこと」


 と言いつつ、部屋チェック。

 明らかに普通の部屋。素朴で、そして、何もない。ドラマとかに出てくる、セーフハウスみたいな。


「ほらよ」


 なんか、よく分からない何かが出てきた。


「レンジで温めるタイプの市販のご飯に、魚の缶詰かけたやつ」


「ばかにしてるの?」


「まぁ、食わないならそれでいいけど」


 彼が、市販のご飯に魚の缶詰かけたやつを器によそって食べはじめる。おいしそうだった。いや彼女か。


「くそっ」


 市販のご飯に魚の缶詰かけたやつ。スプーンでとって、ひとくち。


「うそ」


「美味いだろ」


 おいしかった。びっくりするぐらいに。

 もしかして。ここに置いてあるお茶も。


「おいしい」


 なんでこんなにおいしいの。


「俺が淹れたからな」


 ありあわせのものなのに。おいしい。お茶も。ごはんも。


「なんか、いいな」


 つい、本音が出てしまった。


「あなたみたいなひと、男にもてるでしょうね」


 見下していた男が、いい女だった。脳内が弾け飛びそうな事実だけど、女だから、まぁ、いいかって思わないでもない。同類なら、顔の良さでわたしが勝る。


「女扱いするな」


「え」


 睨まれた。なんで。


「おっと」


 焦りの表情。

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