第9話
しまった。つい、親密になりすぎたか。本音が出てしまった。
まぁ、仕方ないか。もうこの際だし。どうせ自分の人生には、関係無い女との会話だし。
「男だったんだよ。私は」
正確には、両性具有だった。
男も女も、両方使える状態で生まれて。それが原因で捨てられた。そこからはひとり。
「男か女か決めないといけなくなって、女にした。どうせ両方使えなかったし」
だから、両性具有ではあるけど、不具でもある。よくある話だった。使い物にならないのなら、あってもなくても変わらない。だから、切った。動きやすくはなったので、よかったと思っている。
「でも、女ではいたくないなって。なんというか、切られたものを見たとき、思ったんだよ」
「後悔してるの?」
「いや。分かんないけど。なんか、そう思った。男でいないといけないって。男らしくないと、って」
これも、よくあることらしい。切り落とされたやつらは、歴史的にも男らしくあるか権力を求めるかしている。女々しい男の欲望だった。
「女扱いしたら。怒る?」
何言ってんだこいつ。
「怒らないよ」
「さっき怒ったじゃん」
「それは」
親密になりすぎたからだよ。言葉を、飲み込む。
「ごめんね。わたし、顔がよかったから。女としてほめられたことしかないの。だから、ほめるときも。女のほめかたしかできない」
「おい」
なんで泣いてるんだこいつ。
「大変だったよね。ひとりで」
「感情過多か?」
「いや、わかんない。わたしにもよくわかんない。今までの人生で泣いたこととかなくて」
本当に困惑している様子だった。
「他人を見下すしかなかった。自分より優れた人間なんていなかったし。男は顔しか見てこないし」
泣きながら。話している。その顔すらも、綺麗だった。
「初めて会った。自分よりも不幸な人間に」
不幸。
「つらかったね。くるしかったね」
「見下せよ」
「むり」
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