第3話

 なんとなく、薄く気付いたことだったけど。どうやら図星だったらしい。この女は、他人を見下している。きっと顔が良いのも性格に作用しているんだろうと思う。綺麗な顔が、綺麗に歪む。


「わたしは、手伝いたくて。助けたくて」


 どうやら自分に言い聞かせているらしい。

 自身の悪意に無自覚なタイプの、やつ。これなら、恥部を拭わせるとかのほうがまだ直線的で救いがある。法律で裁けるし。

 目の前のこの女は、何をどうやっても、裁かれることはないだろうし。救いようもない。


「ごめんなさい。嘘ですね」


 えっ。開き直るの。意外。


「そうです。あなたのことを見下してます。わたし」


 素直。ちょっと気味悪い。


「昔から、人よりも器量が良くて。顔が良くて。何をしても許される。そんな人生でした」


 給湯室に、座り込む。長話をするらしい。

 とりあえずお茶の用意。


「この会社に入ったのも、顔です。うちの社長、わたしを気に入ってるらしくて。男に騙されやすいから女にしたとかなのかな」


「そうなんですか」


 男に莫大な金を注ぎ込んでる社長なのは知っている。ただ、後半部分の女に興味持ってるというのは、初耳。


「今夜、食事に誘われたんです。そろそろ終わりかなって」


「行くんですか」


「行くしかないですよ。この会社にいる限り」


「転職とかは」


「無理です」


 食い気味の否定。


「無理です」


「あっ」


「どうしました」


「いえ。気にしないでください。どうぞ。お茶です」


 話が面白かったので、ついついお茶を美味しく淹れてしまった。大丈夫かな。


「ありがとうございます。こんな女に」


「いえいえ」


 女が、お茶に手をかける。

 いや飲まない。まだ話すか。


「あなたのことも、見下してた、と。思います。でも」


 お茶をひとくち。


「なんていうか。見下してた人間が、女の股間を拭わされているようなひとが、なんか自分に重なっちゃって。こんな風に、自分も社長のきたない膣を舐めるのかなって。あっお茶おいしい」


 なんか。いやな予感する。次の一言は、たぶん。


「わたしを抱きませんか?」


 ほらこれだ。おいしいお茶出すとみんないつもこうだ。


「いや、意味分からないですけど」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る