第6話

「こっちです。春中さん」


 見るからに、高級な車。


「さぁ、行きましょう。あ、メディアは見ちゃだめですよ」


 ひとめで、分かる。


「そんなもので、騙せると思ったんですか?」


「おっと」


「わたしが、何年男を見下してきたと思ってるんですか。わたしの目はごまかせませんよ」


「あら、ばれちった」


 この男。どこからこんな、高級な車を。

 でも、それはこの男とは関係がない。わたしが見下した男なのだから、わたしよりも上なはずがない。

 車に乗る。ものすごく深く、沈み込むような感覚。高級車にありがちな、事故のむちうちとかを考えてないばかなシート。新車の匂い。


「わたしが運転するんですね?」


「そのほうが、支配欲がかきたてられるのかなって」


 それはそう。助手席に見下した男を乗せての高級車。旨い。このうえなく美味しい。

 エンジンスタート。本物の新車なので、ちょっとアイドリング。


「どこへ行きましょう?」


 チケットが寄越される。一等地の高級ホテル。二泊三日。

 エンジンスタート。


「性欲旺盛なのね?」


「いや。女性同士の経験はないから、やってみないとわかんないけど」


 やっぱり。わたしが見込んだ通りの男。だった。

 男?


「待って。いま女性同士のって言った?」


「女ですけど。普通に」


 急ブレーキ。


「嘘、よね?」


「嘘ですね」


 助手席にサイドキック。そして急発進。


「死ねくそ童貞が」


 わたしが見込んだ男のくせに。わたしを弄ぶな。


「処女が言うと貫禄ありますね、その捨て台詞」


 またしても急ブレーキ。


「そんなにブレーキベタ踏みしてたら、タイヤすり減りますよ」


「なんで。それを」


「あはは。本当に処女だった」

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