何処かにはいて、何処にもいない「ファム・ファタール」

 男性の夢想が描き出す理想の女性像というにはいささか刺激の強すぎる「レイさん」。レイさんとの関係をおかしいと感じながらも、「苦笑しつつ」受け入れる語り手。
 二人の天秤は一応のところ釣り合っており、釣り合っているからこそ歪に見える関係
は続いていく。

 手を伸ばせば届きそうな星をなぜ語り手……彼は掴まなかったのか。
 おそらく掴まなかったのではなくて、掴めなかったのだろう。レイさんは彼にとって通り過ぎていく人の一人にすぎない。そしてレイさんにとっても、たまたま行き合って見つめあった一人の可愛い男にすぎなかった。
 そして、犬みたい、と笑うレイさんの手を掴みにいけるほど彼は強くもなかったのだ。

 幻想だけを残して彼女は去っていく。幻想だったのか、本当だったのか。それを証明する手立てはスマホの中にしか残っていないから、彼は画像を消せないのだ。



 

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