第1章 クズは牢獄へ
第1話 クズは新世界へ①
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
五味黒水の目の前には、まさに近未来の世界とも呼べるような見たこともない空間が広がっていた。
どっしりと聳え立つビルや塔の数々に、せわしなく楽しげに道を闊歩する人々――。
その光景に黒水は興奮のあまり人目も憚らず叫んでいた。
別に、黒水が田舎から上京したての学生というわけではない。
むしろ生まれてこの方、十五年間ずっと東京で暮らしてきた根っからの都会っ子である。
しかし、
「高層ビルに、アスファルト、そして……、なんといってもこの煌びやかな太陽と澄んだ青空っ!ここがほんとに東京にできた地下空間だとは思えねーぜっ!」
そう。
黒水がいたのは東京の地下にできた学園都市だったのである。
すべての建物も設備も環境も、ホログラムやプロジェクションマッピングではない、実際に造られたものだった。
青空や太陽といったものがここでどのようにつくられているか黒水にはよくわからなかったが、確かにいえることとしてここには地上と遜色ない、いやむしろ地上の東京よりも未来を感じさせるようなそんな場所がそこにはあった。
『ようこそ、学園都市アンダーへ。あなたの制服を務めております。テリスとお呼びください』
「な、なんだあ!?」
唐突に右耳に響く機械的な女性の声に驚き、間抜けな声を出す黒水。
そういえば、制服にはAIか何かが搭載されていると入学の手引きに書いてあったような気がする。
ちゃんと読んでないけど。
確かに、今黒水が着ているのはただの制服ではない。
制服というより、ボディスーツと呼んだほうが正しい。
今から入学式に行くのではなく、大型ロボットのパイロットにさせられるのではないかと錯覚するくらいだ。
しかも周りの人全員が――男女関係なく――色もスタイルも全く同じの服を着ているわけだから異様な光景だ。
ここにいる全員、青の、ボディラインがくっきりと見えるスーツを着ており、右耳にはイヤホンを装着していた。
かくいう黒水もその恰好をしているわけだが。
『まずはご入学おめでとうございます、五味黒水様。あなたは東京地下第四高等学校の一年生としてこの世界に選ばれました。疑問点等ございましたら何なりと私、テリスにお申し付けください。雑談等もある程度可能ですのでお気軽にお声がけください。黒水様の声でテリス、とおっしゃれば反応いたします』
「……す、すげぇ」
初めて触れる技術の産物に感嘆の声が漏れた。
スマホが誕生してすぐにスマホに触れた人間もこのような高揚感に溢れたのだろうか。
そんなことを考えてしまうほどに黒水はもうすでにテリスに夢中になっていた。
「じゃ、じゃあ……、えーっとあのぉ、テ、テリス?」
『はい、五味黒水様。なんなりとテリスにお申し付けください』
「お、おう!やっぱ慣れないなあ……。あっ、じゃあ入学の手引きちゃんと読んできてないから、もうちょっとこの学園都市について詳しく教えてくれないか?」
『了解しました。ここは学園都市アンダーと呼ばれる、東京の地下にできた学生のための世界です。面積は十四万平方キロメートルで、東京ドーム三〇〇個ほどの広さを有しております。人口は約五万人で八〇%が十八歳以下の学生となっております。現在は小学校が三校、中学校が四校、高校が八校存在しており、小学校と中学校各一校が建設中になります。五年前に完成したばかりなのですが、ここにある高校の卒業生にはすでにノーベル賞候補とも言われている科学者や有名企業の社長などがおり、若きエリートたちが集う場所でもあります。この学園都市の開発は<二十年後の未来を想定した、日本の新たな教育>をコンセプトに地上では利用されていない最新技術を試験的に運用し、最終的には二十年後、地上でも技術を導入し教育を中心に日本人の生活に革新を起こそうという国の計画に基づくものになります。その技術革新の中心に私共、テリスが存在しているというわけです』
この学園都市が誕生してから二十年、ということは十五年後の日本では地上でもこのテリスが日常的に使われるようになるということだろうか。
まったく国の考えることはよくわからないが、AIと密接に生活するというのが凄いことだというのはなんとなく感じる。
ただ、黒水には一つ引っかかることがあった。
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