クズはゴミ箱へ

天方主

プロローグ

クズは地獄の始まりへ

「――やっと起きたかしら」


 目を覚ますと、五味黒水(ごみくろみず)は全裸で拘束されていた。


 まだ完全に覚醒していない目で辺りを見てみる。


 四畳半くらいの薄暗い部屋。


 眼前にあるのは、白い机とその上にある電気スタンドのみだった。


 そして、奥には少女らしき影が佇んでいる。


 気味の悪い光景に、背筋が凍った。


「俺は、一体……」


 黒水は初めて口を開き、言葉を紡いだ。


 奥の少女の影に話しかけたというよりは、独り言のように。


 しかし、


「……あら?覚えてないの?」


 思いがけない返答に、再び影のほうに目を向ける。


 その瞬間、小窓からオレンジ色の光が差し込み、スポットライトのように彼女を包んだ。


 目に映ったのは、全身に青いボディスーツを纏った黒髪の長い少女だった。


 彼女は口角を吊り上げて、猫のような丸い目で黒水の顔を凝視していた。


「まあ、あんなことをしては記憶もなくしたいでしょうけど……」


 彼女は嘲笑した。


 一体、何をしたらこんな状況になるというのか。


 考えを巡らすが、何も思い出せない。


 いつの間にか、夕焼けのオレンジが他の色全てを奪ってしまったかのように、この空間を染め上げていた。


「じゃあ、簡潔に教えてあげる」

「……ウッ!」


 彼女は強い力で黒水の顔を押し上げた。


 思わず、苦しそうな声が漏れる。


 彼女の力強い眼差しは、目を逸らすことを許してくれない。


 そんな威圧感を漂わせて、彼女は言った。


「あんたはあたしに逮捕された……、それだけよ」


 このとき、黒水の地獄の日々が幕を開けたのだった。

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