第5話 クズはクズなりの行動へ

 ――電車が到着した。


 電車、というよりは完全に新幹線に近いフォルムだった。


 全体的に白く、電光掲示板と同じく青白い光の線がデザインに施されていた。


 プラットフォームのあちこちから感嘆の声が聞こえてくる。


「……はあ」


 しかし、黒水はそれどころではなかった。


 隣にいる黒人マッチョサングラスによって、黒水の周りだけ緊張感が漂っていた。


 ――スタイリッシュに、音もなく電車の扉が開く。


 同時に、学生たちがぞろぞろと電車の中に入ってくる。


 たちまち電車内は満員になった。


 特に、黒水は隣からの筋肉の圧で息も苦しいくらいだった。


「まもなく一番線が中央駅を発車いたします。駆け込み乗車はおやめください」


 女性アナウンスが発車の合図を告げる。


 と、そのとき――。


「すみませぇ~ん」


 一人の少女が黒水の目の前に、駆け込み乗車してきた。


 絹糸のような金髪のショートボブが艶やかに光る。


 膝を軽くつき、穏やかに吐息を漏らす姿がやけに艶めかしい。


 満員電車でも皆の目をくぎ付けにさせていた。


 しかし、注目を集めていた理由はそれだけではない。


 制服が――、オレンジ色だったのだ。


 周りの人全員が青の制服を着ていたため、なおさらだ。


 ヒソヒソ声もちらほら聞こえる。


 上級生かなんかだろうか?


「……、んっ!」


 オレンジ色の制服の少女が突如喘ぐような声を出す。


 ますます注目度が上がっていく。


 まさか人に見られて興奮するタイプか、こいつ?


 そんなことを考えながら、黒水が少女のほうを見やると――。


 衝撃だった。


 あの黒人マッチョが、その少女の臀部をまさぐっていたのだ。


 まさか、入学初日に痴漢……。


 こいつ筋肉だけじゃなく神経も図太いな。


 暫く、黒水はその光景に唖然としていた。


 だが――。


 黒水の心の奥底からドロドロと、怒りが込み上げてきた。


 強靭な肉体に反する、臀部のフェザータッチ。


 ――許せなかった。


 少女の目尻に、涙が見えた瞬間。


「…………………………、おい」

「……………」


 黒人マッチョは少女の臀部から手は離さず、しかし黒水のほうへゆっくり振り向いた。


 周りの声もヒソヒソからザワザワに変化した。


 だが、黒水は止まらなかった。


「ケツってゆーのは……、女のケツってゆーのはなあ……」


 そして、黒水は――。


「こうやって揉むんだよおおおおおおおおお!」

「きゃあああああああああああああああああ!」


 ハードカバーのように分厚い黒人の手をどかし、欲の赴くままに少女の臀部を揉みしだいた。


 黒水の指の動きに合わせて臀部が波打つと同時に、少女の叫び声が車内に響き渡った。


 黒水は欲の塊。


 公然でもこういうことができてしまうこじらせクズだった。


「どうだ、この筋肉ダルマ!これが真のケツの揉み方じゃ――」


 ――刹那、黒水の視界がブラックアウトした。


 黒人の剛腕によるラリアットを首に受けたのである。


 こうして黒水は満員電車の中、羞恥をさらすように気絶したのだった。

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