第6話 クズは取調室へ①

 黒水は目を覚ました。


 目の前には、白い机に電気スタンド、その奥には壁にもたれかかった少女の影――。


 黒水は手錠で手足が拘束された状態で椅子に座らされており、身動きがしづらい状況だった。


 しかもなぜか全裸だった。


「俺は、一体……」


 ここがどこなのか。


 なぜ自分はここにいるのか。


 ――何も、思い出せなかった。


「……あら?覚えてないの?」


 小窓から夕焼けの光が差し込み、声の主である少女の姿がはっきりと見えた。


 全身に纏う青のボディスーツからわかる、女性らしく美しい、丸みを帯びたボディライン――。


 黒翡翠のように黒く輝いた、胸元まで伸びた長髪――。


 そして、猫のように丸い目――。


 そのどれもが彼女の美しさを形容していた。


「まあ、あんなことをしては記憶もなくしたいでしょうけど……」


 そんな彼女の嘲笑が、今の黒水にとっては恐怖でしかなかった。


「じゃあ、簡潔に教えてあげる」

「……ウッ!」


 彼女は強い力で黒水の顔を押し上げた。


 思わず、苦しそうな声が漏れる。


「あんたはあたしに逮捕された……、それだけよ」

「…………………………ん?」


 黒水は彼女の言っていることがさっぱり理解できなかった。


「まだ名前を言ってなかったわね。私は降魔奏(ごうまかなで)。東京地下第四高等学校の二年生にして、風紀委員長を務めているわ。これからよろしく、五味黒水、もといごみくず君♪」


 奏と名乗った目の前の少女は楽し気に言った。


 てか最後、完全にディスってたよな?


「なんで風紀委員長ともあろう人が俺の名前を知っているんだ?てかなんで俺はだか?」

「そんなくだらないこと聞く前になんで自分が逮捕されたのか考えなさいよ、この変態クズ童貞が」

「ああ、はいはい。なんとなくわかったわ。あれだろ?ここはSMクラブで、俺が嬢であるお前に未来からやってきたポリスに罵倒されるという設定でのプレイを要求したんだな。で、俺はムチに打たれすぎて快感とともに気絶した、と。うん、それしかありえないなこの状況は!SMクラブに入った覚え全くないけど!」


 黒水は状況からこのように推理し、奏に伝えた。


 すると、奏は黒水に向けて徐に、パチパチと拍手した。


「さすが、私の見込んだだけの変態クズ野郎ね」

「気になってたんだけど、さっきから俺のこと変態だの、ゴミクズだの、ちょっと言いすぎやしねーか」

「全く言いすぎじゃないわ。むしろあなたのクズっぷりを最大限に表現できる日本語が見つからず嘆いていたところだわ」

「……………」


 奏の、悲劇のヒロインのように頭を抱える振る舞いに、言葉も出ない黒水。


「というか、本当に覚えてないわけ?あなたは入学式の前にも関わらず、多くの人の前で自分のクズっぷりを披露してたじゃない?」

「……………あ」


 黒水は『電車』という言葉を耳にした瞬間、現在から過去へと遡るかのように記憶がフラッシュバックした。

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