第10話 クズは修羅の道へ②

 あれからシモンに手錠を乱雑に外され、黒水はオレンジ色のテリスを着用した。


 今はゴミ箱で行われる集会に参加するため、奏の後ろに付いてきている。


 ここから逃げるチャンスかと考えたが、黒水の隣ではシモンが睨みを利かせている。


 少しでも逃げる素振りを見せたら、2m超の巨体によってボコボコにされることだろう。


『生体認証中……。適正ユーザーであることが確認できました。改めてよろしくお願いします、五味黒水』


 右耳に装着したイヤホンから聞き覚えのある声がした。


「おお、テリスじゃん!……ってあれ、ちょっと生意気になってない?」


 今朝話したときは『様』とかなんとか付けていたような気が……。


「クズは黙って急ぎなさい!もし集会に遅れたら風紀委員長である私の責任になるんだから!」

「いいだろ別に。ちょっとはテリスと話させてくれよ。そもそもなんの集会なのか、俺にはよくわかんねーってか、遅れても俺には関係ねーっていうか――」

「――シモン」

「イエス、マダム」

「すみませんすみませんっ!じょ、じょーだんじゃんかあ!はい、走りまーす!」


 奏の呼びかけによって、シモンが黒水の首根っこをつかもうとしたので、黒水はすぐに奏の言うことに従うことにした。


 というかシモン……、お前しゃべれるんだな。


 日本語が話せるかはまだ定かではないが……。


「ほら、ちんたら走ってないで!もっと本気出しなさいよっ!」

「はあ、はあ……。いや本気で走ってるって……!てか、テリスを着ると身体能力が大幅に向上するんじゃなかったのか?走ってる感じいつもと一緒だぞ……」

「何言ってるのよあんた。クズ囚人にそんな機能を与えるわけないでしょ。あんたが着ているテリスはver.1.0。ちょっと便利なスマホと思ったほうがいいわよ」

「ま、まじかよ……。はあ、はあ……!」


 視覚情報がないから、むしろスマホの下位互換ではないだろうか?


 なんというか、今朝までは希望に満ち溢れていたのに、目が覚めてから絶望的なことばかりだ。


 不格好なフォームで黒水は見慣れない、白くきれいな校舎をひたすら走った。


 窓のほうを見やると、夕日が沈もうとしていた。


「――ほら、着いたわよ」


「はあ、はあ……!」


「この下にあるのが今日から暮らすあんたの住処。――ゴミ箱よ」


 黒水は疲労のあまり、手を膝に付けて肩で息をしていた。


 目の前にあるのは、汚れ一つないきれいな階段。


 その手前には<校内超監視牢獄 クズおよび風紀委員以外立ち入り禁止>と書かれた看板が立てられていた。


 この先にはどんな地獄が待っているのだろうか?


 階段下の闇を見て、黒水は思わずゴクリとつばを飲み込んだ。


 そして黒水はシモンに押されて一歩、足を進めた。

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