「君は僕の彼女だぞ!」


 彼らしくない言い草だった。私を所有物のように思っているはずはないのに。きっと余裕がなかったんだ。


「どうしちゃったんだ。前の君はこんなんじゃなかった……!」


「こんなんってなに」


「言わせないでくれよ」


 大きな体がもじもじとするさまに苛立ちが募った。


「言いたいことがあるなら言えば? いつもみたいにさ」


「僕は……」


「前のあなたに戻ったら?」


 挑発的な物言いに彼氏は怒鳴ったが、私はちょっとも動じなかった。筋肉、力で敵わないのは体の構造上から分かりきっている。しかし私は彼氏より、どこの男たちより、性的に上位だった。高価で、稀少で、美しかった。私が浮気をしていたのはまぎれもない真実だ。何股かけたか分からない。八股大蛇。だから? それが何だっていうんだ。


 私はアゴをつんと持ち上げて言った。


「あなたが悪いのよ! 私の体ばかり見て、本当の私を見失った。心を見失ったのよ!」


 なぜそんな言葉が口をついたのか意外だった。ただ今の彼氏は、高値のついた私が無断で動き回るのが不満で、かといってガラスケースの保護のもとに展示されるのでさえ不服で……。完全に隣を歩く私の美しさを持て余していた。そうにしか見えなかった。そうに違いなかった。


「あなたは呪われるべき存在だわ」


 私たちは別れた。私が一方的にふった。


 肩の荷が下りた。ぐっと体が軽くなった。楽になるかと思いきや、私は空中にほっぽりだされた気持ちに陥った。布団をかぶったベッドの中で、SNSをひらいてみる。あの梅雨の日、私を“みつけた”あのクラスメイトにメッセージを送った。会う約束はすぐに出来た。すぐに約束の日になる。彼は数人の仲間を連れてきたけど、私はいとも容易く彼らを晩餐のテーブルに並べて、飽食のナイフとフォークを振るった。


「私のこと覚えてる?」


 彼らから生気を搾り取りながら、何度もたずねた。


「ねぇ、覚えてる?」


 男から返ってくるものは快感に踏み潰される虫じみた断末魔だけだった。


 私はいったい誰なんだろう。


 どろりとしたものが胸の内でとぐろを巻いた。


 呪ってやる。

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