ネオンの街を後にし、帰りの電車を待つ駅のホーム。


 クラスメイトは私に気がつかなかった。私があの田舎町を席巻した幻のツチノコだとは夢にも思っていなかった……、そんな振る舞いだった。


 知らないはずないでしょ!?

 前に会ったじゃないの!

 覚えてないなんて言わせないわ!


 どうやらあの日の男は、遠い記憶にある私と、今の私を別人として捉えていたらしい。気付かないながらも、私からツチノコを思い出し、そしてネットにつぶやいただけだったみたいだ。腹立たしい望郷の念を飴玉みたいに口に含んで。


 勘違いしたんだ。私だけが、愚かにも。


 ふと彼氏の顔が浮かんだ。呪われるべきだと罵ったけれど、それは違う。私は決して彼を呪わない。本当に好きだった。太っていたってかまわなかった。心を失ったのは私の方。あの時ツチノコは死んだんだ。


 電車がやって来る。


 グルグル回る、鉄の大蛇。


 私が呪ったのはただ一人。


 私自身。


 人を呪わば穴二つ。


 でも今回のケースなら、墓穴は一つでいい。


 ぶくぶく太ったかつての美しい私が入る、大きな穴が一つあれば。





『ツチノコの墓』

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一寸に五分の 朱々 @akiaki-summer

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