「君は変わったな」


 ある日、ぽつりと彼がこぼした。


 明朗に話す人だった彼なのに、そのセリフはまるで満員電車で体を目一杯ちぢめているかのような窮屈なものだった。


 場所は洋服屋だった。公園デートや、都会の神社をめぐるのが常だったこれまでの二人にとっては似合わないところだった。


「見たら分かるでしょ」


 客も店員も女性だらけの店内で、着古した既製品の服をかぶった彼はかなり浮いていた。ダサくて、湿った落ち葉みたいだった。


「見た目の話じゃない」


 私は服を値踏みしながら、曖昧に相槌をうった。


「君なら僕の言っていることが分かるだろ」


 分かるけど、話す気にはならなかった。


 私は美しい。


 その事実がまだ慣れないヒールを履いて立つ私のバランスを保っていた。


 時が経つにつれて、私はどうしてこんな男の隣にいるのかと疑問をいだくようになった。


 ある日は彼の名前を呼び間違えた。今日が何曜日だか分からなくなった。カード会社からお金の引き落としができなかったとメールが届いたりした。


 全てかつてのクラスメイトのせいだと思った。


 私は悪くない。絶対にヤツらのせいなんだ。



 なんのきっかけか、私の男の狩猟行為が彼氏にバレてしまった。

 

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