一寸に五分の

朱々

ツチノコの墓


『ツチノコの墓』(2016.5.21)改稿




 私を見つけた者には100万円。


 と、いう噂があった。


 山手線で渋谷に向かいながら、誰かの皮脂汚れのついた車窓から梅雨の合間の晴天を窓から眺めていた。彼氏は私の異変にすぐに気が付いた。


「どうかしたのか? 大丈夫か?」


 大学三年生、講義の合間のちょっとした平日デートに私は浮かれていた。無防備になっていた、完全に。予想だにしないふとした瞬間、私は忌まわしき過去のクラスメイトと数メートルと数人越しに目が合ったのだ。私達の故郷は東京からずっと離れている。まさかあいつのはずがない。そう相手も思ったはずだ。そうに違いない。でも、しかし、だけど視線が交わった数秒間に、お互いが理解した。たぶん。


 見ぃつけた。


 見つかった。

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