31話 可愛いはジャスティス
いやぁシャバの空気は美味いぜ!。
とは言ってみたけれど、あの牢獄も居心地自体は凄く良かったんだよな。
あのクソジジイ共が乱入して来なかったら美味しい朝食も食べれて文句無かったんだけどなぁ。
でも目の前に広がる質素な食事も悪くない。
「レオスさんレオスさん! 美味しいですか?」
あぁ美味しいよ、ありがとうねホルムちゃん。
目の前で楽しそうに焼きたての少し固いパンを差し出すホルムちゃん。
それを頬張りながら目の前の少女を見る。
長く伸ばした金色の髪を大きなリボンでまとめた、妖精のように可憐な少女......それは比喩でも何でもなく俺でさえ息を飲む程に現実離れしている。
「レオスさ......レオス、洗礼を受けていないホルムに鼻の下を伸ばさないでください」
隣に座るファルシアに冷たい目で見られるけど可愛いは正義だ。
可愛いisゴット。
「......」
それは冗談としてまだエルフ族特有の成人の証である洗礼名を授かってないホルムちゃん相手に鼻の下を伸ばす訳ないだろ?。
「レオスさん! あーん」
デェへへへ、可愛いのう可愛いのう。
ハッ!。
違うんですよファルシアさん。コレは脊髄反射というものでして可愛いに対して無意識に反応してしまうんですよ。だから決してホルムちゃんに対して邪な気持ちを持ってる訳じゃないんですよ?。へへへ、信じてくださいファルシアさん、へへへ。
「なんで急に小物感を出すんですか......」
「レオスさん、あーん!」
あーん! うん美味しいねありがとうホルムちゃん!。
俺がホルムちゃんに食事介護される横で眉間に寄った皺を揉みほぐすファルシア。
それを見た妖精が心配そうに首を傾げた。
「シアお姉ちゃんどうしたの? むつかしいお顔してるよ?」
「くぅ! コレが私に足りない愛嬌と言うの名の魔物なのですか!」
ホルムちゃんisゴット。
美味しい食事を満喫している時も視界の端で縄で縛られた国のトップ2人が血涙を流しているのが気になって仕方がない。
ファルシオンさんはまだ良いとして、ファレジア陛下が怖い。
「レオスさん! コレも美味しく作れたんですよ!」
ホルムちゃんに食べさせてもらう度にドロっとした粘度の高い殺気が俺にだけ向けられる。
「どうかしましたか?」
いや何でもないよ。小さいのにこんなに作れて偉いねホルムちゃん。
「えへへ! シアお姉ちゃんと一緒に作ったんです!」
へぇスゴいね! ファルシアもありがとう、美味しいよ。
「......この程度は嗜みなので礼を言われる事ではありませんよ」
俺の言葉に顔を背けて早口で言い捨てるファルシア、その長い耳の先が赤く染まっているのを見て微笑ましい気持ちになった。
「シアお姉ちゃん?」
ほらファルシア、折角の料理が冷めると勿体無いから早く食べよう。
「そうですね、早く食べて用事を済ませてしまいましょう」
用事?。
「縁談の事です、第三者王子......私の従弟に当たりますが、エルフ族の間では近親婚というのは珍しいですが法的には問題ありません」
そういえばフォレジア陛下とファルシオン宰相は兄弟だったな。
あまりの顔つきの違いに忘れそうになるけど......でもアレだな。娘に対する溺愛度は一緒だから納得だ。
「私自身、あの子に対してそう言う感情はありませんし縁談自体興味ありません。ただあの子は、なんと言うか......ちょっとアレで」
アレ?。
何故か言いにくそうに口籠るファルシア。
後、ホルムちゃん? 可愛いけど笑顔でパンを頬に押し付けるのは今はやめてね。ファルシアお姉ちゃんと内緒のコショコショ話してるから。
「うん! 分かった!」
笑顔で頷いて両手で両耳を塞ぐホルムちゃん。
可愛い、ゴットisゴット。
「叔父様にその......甘やかされた結果、少しだけ我が儘で執着心が強くて......えっと」
なるほど、ちょこっとだけ面倒な子なのね。
普段から物事をハッキリ言うファルシアがコレだけ言葉を濁すんだ、それだけで少し面倒な性格をしているんだろうなぁと言うのは想像に難くない。
俺はこの後に待ち受ける修羅場もどきを考えると溜め息しか出なくなる。
「レオスさんレオスさん! コショコショ話終わりましたか?」
ねぇファルシア。
「何を言いたいか分かりましたが一応聞きます。どうしました?」
ホルムちゃんを俺の妹にしちゃダメかな? このままだと可愛さに殺されそうなんだけど。
「ダメです、ホルムの可愛さで王都が滅びます」
だよね、知ってた。
「えへへ! レオスさんに褒められた!」
可憐な華が咲き誇るように華やかに笑うホルムちゃん、俺は何度でも言おう。
声を張り上げて心で叫ぼう。
ゴットisホルム。
『ざまぁ』されたい冒険王 またたび五郎 @matatabigorou
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