第15話 没落エルフの事情

 その日の夜。


「ちょい美桜ぉ、どうして馬小屋なんかに泊まんのぅ? 宿屋はぁ? あたし久しぶりにベッドで寝たいんですけどぉ! お風呂にも入りた~い!」


「我慢しなさい。貴女を買うのに全財産つぎ込んで無一文なんだからね。明日、またモンスターを狩って稼ぐしかないわ」


 香帆が不満を漏らしたように、金欠となった私達は馬小屋で一晩を過ごしている。

 それでも村の若夫婦に夕食をご馳走になるなど施しを受けた上だ。

 寝床も与えてくれると言われたが、そこまで甘えるわけにはいかず今に至っている。


『しかし美桜さん、考えましたね。隠密行動や誰かにモノを頼む時に限り《視覚偽装トロンプルイユLv.10》を解除すれば、貴女は元の知的美少女へと戻ることになりますからね。その美貌を駆使すれば、大抵の人間はちょろく百発百中でしょう。とても聖女を手籠めにして勇者を剥奪させた強姦魔だと思わないでしょうし……』


「この異世界を守護する女神のあんたが100%言ったら駄目な台詞ね。あっ、あんたって元々駄女神か……」


『わたしは駄女神じゃありません! プンプン!』


 そう。今の私は本来の姿に戻り、香帆と並んで寝そべっていた。

 アイリスが言うように、女子の姿だと誰も悪評が広められた「勇者ミオ」であることに気づかないからだ。


 こうして物事は頼みやすいけど、やっぱり微妙ね……。

 特に若夫婦の夫、妙な下心がある目で私達を見ていた気がしたわ(人間不信の疑心暗鬼)。

 だからあえて馬小屋で寝ることにしたんだけど。


「その羽が生えた妖精ちゃんが女神アイリスね……色々やらかしたせいで、美桜をサポートしているっていう。よろしくね~ん、駄女神ちゃん」


『このエルフ、ガチでムカつくです! 貴女に言われる筋合いはありません!』


 香帆は私と『眷属』契約を結び、従者としてアイリスの姿を見ることができるようになった。

 契約の話を持ち出した際、彼女自身も「疑り深い、美桜の信用を得られるならいいよん」と軽い返事で容易に受け入れてくれた経緯がある。

 その言葉の通り、勇者の『眷属』となった者は裏切ることはなくパーティとして忠実に戦うことを余儀なくされる。

 またその者が力量不足と思えば《強制試練ギアスアンロー》を施し、最初から鍛え直すことも可能だ。


 まぁ香帆の場合、その必要はなさそうね。

 私は《鑑定眼》を発動し、隠された彼女のステータスを閲覧した。



【ファロスリエン(水越 香帆)】

職業:暗殺者アサシン

レベル:18

HP(体力):150 /150

MP(魔力):143/143


ATK(攻撃力):139

VIT(防御力):127

AGI(敏捷力):283

DEX(命中力):230

INT(知力): 105

CHA(魅力):125


SBP: 0


スキル

《隠密Lv.9》……自分の存在を90%の確率で気付かれず行動することができる。

《隠蔽Lv.9》……自分のステータスやあらゆる情報を隠し偽装する。

《索敵Lv.8》……敵の存在を感知する。レベル上昇と同時に精度が増し範囲が広がる。

《千里眼Lv.7》……遠くにいる敵を発見し狙いを定める。

《不屈の精神Lv.3》……MPが「0」となった場合、30%の確率で「MP:3」まで回復する。

《探索Lv.2》……物のありかや人の行方を探り出す力に特化する。

《貫通Lv.2》……防御している敵に対し、20%の確率でダメージを通すことができる。

《槍術Lv.5》

《剣術Lv.5》

《弓術Lv.4》

《鑑定眼Lv.7》

《アイテムボックス》


魔法習得

《中級 精霊魔法Lv.2》


称号:没落の奴隷エルフ

   狩猟乙女姫イェーガー・プリンセスAGI・DEX共に+30補正



 隠密に長けている奴だと思ったけど、まさか職種が『暗殺者アサシン』だとは意外だったわ。

 ステータスも想像以上に高く、特にAGI・DEXは目を見張るものがある。

 所持している技能スキルや称号も、まさしくそれ使用って感じだ。

 おまけに精霊魔法も一通り使えるなんて凄いわ。


 言葉は悪いけど、100万Gを払っても安いくらいの逸材ね。

 これはいい買い物をしたわ。


「美桜、あたしのステータス見ているっしょ?」


「ええ、ごめんなさい。けど凄いわね、素直に感心していたところよ」


「まぁねん、あたしが転生した『聖森王国』はエルフの中でも特殊な国でね。現実世界風に例えるなら『忍者』みたいなことをしていたの。よく他国の依頼で諜報員から暗殺稼業を請け負って、国の運営を成り立たせていたわぁ。おかげでエルフの国にしては繁栄してリッチな方だったんじゃね?」


「忍者ね……それで隠密系に特化しているってわけ?」


「うん。けど、あたしは『箱入りのお姫様』だったからねぇ。職種ジョブ暗殺者アサシンだけど実戦経験はほとんどなかったから、攻撃系は不得意だったんだわ~」


「そう卑下する割には習得した技能スキルやレベル、称号といい……戦えるポイントはしっかり抑えているわね」


「半年くらい前よ……魔王を名乗る魔族が率いる軍勢が『聖森王国』を襲い、国は滅ぼされたわ。生き残ったあたしと少数のエルフ族は、反乱分子として抵抗していた。その時からだね、実戦を通して本格的に自分を磨くようになったのは」


「奴隷商人の話だと、山賊から売られたと聞いたわ。抵抗後、魔王軍に負けたから?」


「そっ。反乱分子の掃討戦でやられちゃってね~。仲間達はあたしを逃がすため体を張って守ってくれたんだけど、あたしも深手を負いながらやっとこ逃げることができたってわけよん」


 そんな中、山賊に捕縛されてそのまま奴隷として売られてしまったと言う。

 深手を負い拘束されながらも抵抗を続ける香帆に、山賊は手に負えなくなり現在に至ったとか。


「あんたのふわふわ口調で軽く聞こえるけど、結構大変な目に遭ってきたのね」


「まぁねん。流石に奴隷商へ売られた時は、あたしの異世界人生オワコンだと思ったけど……こうして美桜が見つけて買ってくれたおかげで、またやる気が出てきたわぁ。あんがと」


「礼はいいわ。これも案外、神のおぼしめしってやつかもね……駄女神だけど」


『美桜さん、またわたしを見て駄女神って言いましたね! 事あるごとになんなんですか! わたしが見張っていますので、とっとと寝ちゃってください!』


 半ギレのアイリスに見張りを託し、私と香帆は就寝した。

 確かに疲れたわ。



 翌日、若夫婦にお礼を言い、私達は王都へと向かった。

 香帆には私が着ていた黄昏高のジャージを貸している。

 現実世界の服だけど、ボロ切れの奴隷服よりマシだろう。


「懐かしいね~。それに美桜っていい匂いだわぁ」


「オヤジか? それよりこれから、行きつけの武器屋に向かうわ。香帆の装備を整えてから、ギルドでクエストを請け負うようにするからね」


 小物のモンスターを討伐するより、依頼されたクエストを達成した方が獲得する報奨金は高いらしい。

 仲間が増えた分、これから費用も掛かるからね。


「いいよん。けどあたしら無一文なのに武器とか買えるのぅ?」


「心配ないわ。唯一、ツケがきく店よ」


 間もなくして王都に入り、ショーンが経営する武器屋へと入った。


──────────────────

【あとがき】

ここまで読んでいただきありがとうございました。

続きはノベルピアさんの方で連載しています。

そちらでも読んでもらえると嬉しいです。

よろしくお願いいたします<(_ _)>

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この女勇者はエグすぎる~転移ガチャでハズレ勇者として追放されたけど、実は普通に無双できるので超余裕! 沙坐麻騎 @sazamaki

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