第14話 ファロスリエン
「キャハ、ガチで!? ヤバくね、その女神ぃ! うわっ、もう駄目以下のポンコツ女神で超引くわ~!」
『このエルフ、最悪です! 誰がポンコツ女神ですか!?』
私の事情を説明しドン引きして罵声を浴びせている、水越。
そんな彼女の前をアイリスが飛び交いながら憤っていた。
今の水越は森の妖精であるエルフ族であり、中でも王族とされるハイエルフの姿だ。
私と異なり『転生』したことで、別種族として生まれ変わったと思われる。
そんなエルフ族でも、同系種族である
(アイリスは黙ってなさい。水越は何一つ間違ったこと言ってなんいんだから。そもそもあんたが転生させた子でしょ?)
『そうですが、けど「転生者」は「転移者」と異なりランダムなところもあるますので、わたしが直接関与しているわけではありません、はい』
(どういうこと?)
『転生者は何かしらの要因によって現実世界で命を落とし者であり、中でも「強き想念」を宿した人間を異世界へ誘い適した種族に転生されるという流れです。わたしは導きの女神として、それらの魂を選別し異世界へ誘う……なんと言いましょうか、例えるなら「ひよこ鑑定士」みたいな仕分け作業を延々と繰り返しているだけなので、誰がどの種族とかいちいち干渉していないのです』
人間を転生させるのに随分と粗末ね。
それに「ひよこ鑑定士」みたいって、職業として頑張っている人に失礼よ。
こんなんだから、私と真乙を誤認しやがるんだわ。
「てゆーか、レベルと性別を隠すあまり強姦魔のレッテル張られて、勇者剥奪とかあり得ねぇ! 自ら墓穴掘ってんじゃん! 超ウケるんですけどぉ! 学校じゃいつも優等生ぶってスカした顔してやがった癖にバカだねぇ、ざまぁ!」
「随分と酷い言い草ね……『水越 香帆』。同じクラスだけど一度も話したことなんてなかったのに……今のあんたにだけは言われたくないわ! 何よその有様ッ、ダッサ!」
ムカついたので言い返してやると、嘲笑っていた水越の表情が固まる。
一瞬、ブチギレる前兆かと思い身構えた。
「……優等生、いや幸城。あんた、あたしの名前をフルネームで覚えていたんだねぇ?」
「当然よ……転生した貴女には何十年かもしれないけど、転移した私にとってはまだ二日目だからね。それに周囲の連中に興味なくても、気になる奴の顔と名前くらい覚えているわ」
急にトーンを変えて訊いてくるので、思わず私のボルテージも下がってしまい普通に答えてしまう。
「気になる? あんたみたいな優等生が、このあたしを?」
「……まぁね。初めて見た時から通ずる何かを感じていたからね」
水越 香帆とは同じ黄昏高校の一年でありクラスも同じだ。
現実世界の彼女も髪を金髪に染めて瞳もカラコンを入れている、エルフ族に転生した今とあまり変わらない容姿だった。
だから気づいたのもあるんだけどね。
水越はその派手な見た目から「黄昏高屈指のイケてるJKギャル」として知られるも、不思議ともつるむことなく、いつも教室の隅っこ一人で過ごすことが多かった。
しかしその美貌から似たような派手な男子に声を掛けられることが多く、その度に「うっせぇ! あっちに行け!」と凄み、また普段の反骨的態度から「ヤンキー」と生徒から教師に至るまでレッテルを張られている。
結果、彼女は孤立の一途を辿っていたのだ。
私も自業自得と思いながらも、心のどこかで水越の生き方に共感するところがあった。
周囲の目を気にせず媚びない、我を通す姿勢。
まぁ私の場合、処世術でもう少し愛想がいい方だけどね。
けどずっと、彼女が気になる存在だったのは確かだった。
名前を憶えているのも当然と言える。
「このあたしと通ずるね~、あんたのような成績やスポーツ万能の優等生がねぇ。いつも周りから羨望の眼差しで注目を浴びている、それこそお姫様にしか見えなかったんだけどぉ?」
「勉強やスポーツも、大切な弟を守るために必死で頑張ってきた結果よ。容姿はお母さんゆずり、一応スタイルに気を配っているわ。他人の第一印象は80%、見た目で大体が決まるからね。それに与えられたモノは活かした方が何かと優位に立ちマウント取りやすいでしょ?」
「……やばぁ。涼しそうな顔の裏でそんなこと考えてんのぅ? あんた、実はあたしより陰湿で性格悪いんじゃない? けどそのハングリー精神、なんか好きだわ~」
「ありがと。私は貴女の誰にも媚びず孤高の姿勢が好きよ」
なんだろう、やたら気が合うわ。
似たような性格だからだろうか?
「――では勇者様。お手続きが終了いたしました。これが領収書となります」
背後から奴隷商人が近づいて来た。
私は慌てて《
「わかった。早々に彼女を自由にして欲しい」
私は領収書を受け取ると、奴隷商人は「わかりましたぁ! ひょひょひょひょ~ん!」と嬉しそうに檻の鍵を外していく。
水越に施された首輪と手足の鎖も外され、抑制されていた呪術も無事に解かれる。
こうして自由の身として開放された。
「それじゃ行くぞ」
「……」
私はこの場から早々に立ち去ろうと、水越の手を引っ張る。
彼女は無言で応じて一緒にテントを出た。
「ひょひょひょひょ……これで手に余していた凶暴ハイエルフを売りさばくことができましたねぇ。勇者様ぁ、どうかまたのお越しを――!!!」
奴隷商人はただ漏れの心情を吐露し、私に向けて大きく手を振っている。
二度来るかは、これからの冒険次第ね。
「あたしなんか買っちゃってガチで良かったのぅ?」
外に出た途端、水越は間延びした軽い口調で訊いてくる。
「貴女だからいいのよ。この世界の連中は信用できない奴ばかり……どうせ仲間にするなら似たような境遇で、共通した目的を持った顔見知りの方がマシだわ」
「共通の目的?」
「そっ。貴女だって『
「……どうかなぁ。向こうでも、あたしは独りだからねぇ。あんたほど執着なんてないしぃ」
「ガチの奴隷だった癖に? それに貴女、《偽装》スキルで自分のステータス隠していたでしょ? だから私は貴女の存在に気づいたんだからね」
あの店内を《鑑定眼》で一通り見ていると、一人だけ「エラー表示」されていたわ。
気になり足と止めて檻の中を見てみると、そこに水越がいた。
つまり彼女は相当高い《隠密》系のスキルを持っているというこを意味する。
おまけに彼女は『転生者』だ。
私もそうだけど現実世界の人間は高いステータスを宿している場合が多い。
それにさっきも言った通りだ。
下手な連中を仲間にするより、水越の方が遥かに信用できる。
この世界で孤立した私には彼女の力がどうしても必要だ。
そんな水越は「別にいいしょ~」と笑みを浮かべおどけている。
っと思った瞬間、不意に真顔となった。
「――ファロスリエン(狩人の乙女)。それが異世界でのあたしの名前だよ」
「ファロスリエン? 少し長いわね……ファロスと呼んだ方がいい? それともリエン?」
「死んじゃった両親から『リエン』と呼ばれていたからね。普段はそう呼んでね~ん。二人の時は『香帆』でいいからさぁ」
「そぉ? まぁ私は『転移者』だから、美桜で変わらないわ。それじゃよろしくね、香帆」
こうして香帆を仲間に加え、私達は裏路地を出た。
ようやく前に進めそうだ。
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