3
「アルバムって結構曲入ってるんだなあ……」
ぼくがCDを買い出したのは彼女の影響だったから、基本的なことも知らないで聴いていく。
最初の曲名は『空も飛べるはず』これは合う曲だな、とか歌詞が独特だな、とか書いていくと筆がノってきて段々と感想の文が形になってきた。でも、安易に好きという言葉は使わなかった。彼女に失礼な気がして。本当に大事な言葉は簡単には出さないものだ。
すべての感想を書き終える頃にはぼくは眠気に負けていた。机に突っ伏して耳のイヤホンだけがスピッツのアルバムをリピートしていた。
次の日、学校へ行くと彼女が見えない。
先生やほかの生徒も何も言わない。いつも通りだった。ぼくには友達がいないから確認のしようもない。
先生にそれとなく尋ねると、転校したそうだ。荷物は今朝早く取りに来たらしい。
「聞いてなかったのか?」
「……はい」
そう言ってとぼとぼと教室に戻る。
何かの冗談だろう? 茫然自失ってこういうことを言うんだろう。
おいおいおい……そんなのないだろ? まだ曲の感想だって聞いてないし、もっと話したいことだってあった。そんなのって……。
ぼくはまた一人にされてしまった。そう思って自分の机に座る。下を向いていたらおぼろげに机の引き出しに白い封筒が見えた。きっと彼女からのものだ。
もう彼女には会えないのだ。どうして知ってたのに教えてくれなかったのだろう。ぼくはその手紙を引き出しに押し込んだ。むかついたのとかなしみからの行為だった。
それから秋めいてきてすこし肌寒くなって木がすっからかんに裸になって冬になって雪が降って幾ばくか暖かくなり始めて。
ぼくが中学を卒業する頃には、もう誰も彼女についての話もしない。ぼくもしない。ぼくはその後話せる友達もできた。その手紙のことは受験諸々のせいもあって忘れていた。卒業式の後、掃除の時間に引き出しの奥からしわくちゃの手紙が出てきた。ぼくはそのままの勢いで開いた。
『略啓 君へ。
君がいつこれを見ているのかわからないけど、この手紙を見ている頃には私はもうそこにはいないでしょう。
さみしい? かなしい?
ならもっと早く告白しろ! 意気地なし!』
てっきり曲の感想が書いてあるものだと判断していた便せんには彼女なりの恨み節が綴られていた。紙には余白が多く残っていて染みがあった。引き出しでついたものじゃないことくらいぼくにもわかった。
ぼくは安心した。記憶の片隅でゆらめく君が以前のぼくと同じ気持ちだったから。
「まったく、かなわないなあ」
行き場のない気持ちとこの手紙をどうしようかなあ。
――きっと秘密にしていたほうがいいことなのだ 鷹橋 @whiterlycoris
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