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 下校時に誰かを待つことはぼくにとってとても微妙なことだった。ぼくみたいな付いては離れてを繰り返していた転勤族にとって下駄箱のすこし先でこうして違うクラスのしかも異性を待つ。とてもじゃないが、恥ずかしさが勝る。足がむずむずする。背中なんかをぽりぽりかきむしりたいくらいだ。


「ごめん。ホームルームが長引いて」ぼくが考え込んでいると彼女はこっちを向いて頭を下げていた。


「ううん、しょうがないよ」

「でもここ、暑かったでしょ?」


 たしかに暑いが、これから女子とデートみたいなもんだ。こんな暑さくらい全然平気だ————なんて言えたらいいのに。


「ううん、しょうがない、しょうがないよ」

「そればっかりだね」

「ぜったい言わせただろ」

「バレた?」彼女はほくそ笑む。

 たわいない会話ののち、ぼくたちは歩き出す。誰にも見られることもなく。






CDショップに入ると、今流行りの曲なのかバンドのバラード系の曲が流れていた。それにのぼせてぼくは彼女と今現在、俗に言うところのデートをしているんだなあってしみじみと感じていた。この先なにがあってもぼくだけは彼女のそばにいよう。


 『さ』行の真ん中にあったスピッツのアルバムを何枚か手に取って二人で見比べていた。


「これ対になってるね」

 彼女は何か考えついたように、にししって笑った。悪巧みを思いついたらしい。それからぼくを見て、


「右と左どっちがいい?」と訊いてきた。


 ぼくはなにがなにやらわからないでいると、

「どっち?」と急かされる。本当に読めなくておてんばで、かわいくてしょうがないなあ。


「左で」

「じゃあ君のはそっちね」そう言ってアルバムを一枚渡してきた。「私のはこっちか~。明日までに聴き終えて感想を言い合おう。それから交換しよ」


 勝手に決められてしまった。しょうがないけど、おもしろそうだ。聴いたことのない曲の感想を言い合うのは。

 それに約束をして、約束が叶えられていくのはなんだかうれしかった。また会う口実にもできる。


 ぼくと彼女はその二つをレジに持って行った。

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