――きっと秘密にしていたほうがいいことなのだ

鷹橋

1

 小さいころ。幼いころ。ぼくには同じ時期に中学校に転入してきた女の子がいた。何をするにもいっしょで、もちろん男子生徒や女子生徒からばかにされることもあった。


 ぼくたちはそれでいいなんて思って共同戦線を張っていた。強がりだった。友達がほしい。でもどちらかに友達ができてしまったらぼくたちは離ればなれになってしまう。そんなことを考えていた。彼女もそうだろう。そうだったとしたらいいのに。


 ぼくと彼女はCDプレイヤーで音楽をよく聴いていた。決まってぼくの部屋だ。だからといって変な過ちなどなく、つつがなく日々は過ぎていく。


「スピッツ」


 彼女がおもむろにつぶやいた。


「アーティストにスピッツっているじゃん? なんで犬の名前なんだろうね」


「たしかに同じ白い犬ならサモエドでもよかったし、なんでスピッツなんだろう? 飼ってたのかな?」


「わからない……。でも犬の名前なのに『猫になりたい』って曲を出してるのはおもしろいよね」

 だね、ぼくは言った。ふとぼくの左肩にささやかな重みを感じた。彼女のものだった。横を見ると彼女が寄りかかってきていた。


「寝るなよ。もうすぐかあさんが帰ってきちゃう」


「んー」彼女は腕をあげてのびをする。夏服だから腋がちらっと見えてしまったから、ぼくは少し彼女の中の女性を意識した。そりゃあぼくだって男だ。彼女だってかわいいんだ。


「もうしょうがないなあ」

「そんな時間ならそろそろ帰ろうかな」

「ん。明日は帰りにCDショップに寄らない?」

「いいよ。お小遣い出たし」

 約束を交わしてぼくらはわかれた。

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