晴れの日も雨の日も

うり北 うりこ

第1話


「はぁ……、こいつも私を裏切りやがったのね」


 重苦しいため息と共に、優しかった彼との幸せだった思い出にふける。

 今度こそ運命だと思った。それなのに、妻子持ちだったなんて。許せない。

 ギリギリと奥歯を噛みしめながら、私はそれを車のトランクに入れた。引きずったけれど、それはとても重かった。そのせいもあって、私の手は真っ赤だ。


「こんなにか弱い女の子にこんなことをさせるなんて万死に値するわね」


 ぶつぶつと文句を言いながら、10年ほど前に購入した私の山へと向かう。ストレス発散には自分の山が1番だ。山は私を裏切らないし、心を慰めてくれる。


 私有の山は、家から車で小一時間ほど。ドライブにもちょうど良い距離だ。この時期はスピード違反の取り締まりも多いため、安全運転をより一層心がけて走っていく。


 購入した山は、車でも途中までは登れるようにと整備されていた。だが、私が所有するようになってから整備をしていないため、アスファルトが木の根で押し上げられたりしている。

 けれど、そんな風に凸凹とした道も裏切られる度に車で来ているので慣れたものだ。


「はぁ、ここに来るとやっぱりちょっと元気が出るなぁ」


 少しの間、木々やそれらをつつく鳥を眺めたあと、私はトランクからどさりと乱暴にそれを落とした。


「これから飾ってあげるからね」


 持ってきたロープで縛り、頑丈そうな枝にロープを引っかけてから、それを車で引っ張った。

 私の力で持ち上げるのは難しいから。


「最後にきちんと落ちないようにしてっと……。うん、かなりの数をこなしたから慣れたもんよね。あーぁ、次は運命の人だといいなぁ」


 新たな仲間となったそれを見て、私は呟く。


「てるてる坊主変わりなんだからさ、私の人生を晴れにするくらいの役には立ってよね」


 ぶらりぶらりと揺れるそれらに向かって声をかけるが返事はない。既に一部が朽ちているものもある。


 毎日毎日、雨が降ろうが風が吹こうがぶら下がっているそれらをもう一度見てから、私はその場をあとにした。


 それから暫くして、交際していた男が行方不明になっていると噂で聞いた。きっとそいつは今も山で仲間たちと鳥のエサにでもなっていることだろう。


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