第12話

 依頼決行の日。車の運転は俺、助手席に優さん、後部座席に雪絵さんを乗せて走る。

 途中でふと思いついた事を呟いてみる。優さんは笑いながら言った。

「構わないよ」

「え?!」

 俺はただこうすればいいかもしれないというのを呟いただけ。

「それでいこう」

「で、でも!」

 基本的に依頼に口出ししないのが約束だ。

「別に君が思うことを言うのはいいんだし、今の案は君らしく、いい考えだと思ったんだ。ただ、やり方は任せてもらうよ」

 優さんは雪絵さんに指示を出し、ある物を作ってもらう。プリンターも積んでいるからすぐできた。その紙を俺は受け取って懐にしまう。

 しばらく車で走ってると目的地の近くの駐車場に着いた。

 俺と優さんは降りて、雪絵さんは車内に残る。

 目的のビルに入り、エレベーターに向かう。俺たちだけが乗ったのを確認し、一番上の階を押した。着いてドアが開いた瞬間能力を使う優さん。

 誰にもバレないで扉の前に着く。

 横にいる護衛の目を斬った優さんは能力を解く。

「?! ぐわああああああ!」

「雪絵」

 通信機器越しに指示を出す優さん。何もしていないのにロックが解けた。中へ入ると、全員がこちらを見た。

「なんだおまえらは?!」

 姿が覚えられる前に能力を使う優さん。

 敵全員の目を斬り、能力を解く。

「ぎ、ぎゃああああああ!? 目が! 目がああああああ!!!」

「あなたを殺しに来た」

「な、なんだ?! 何者なんだ?!」

「生きたければ選べ。皆月愛の懸賞金を取り消すこと、二度と追わないこと。それを書いた誓約書にサインすること」

「ふ、ふざけるなぁ! おい、どうした! 殺せ! こいつを殺せぇぇぇ!」

 もう目が見えていないからどういう状況かわかっていない。

「あなたの護衛の目も潰している。この程度の人間だと、殺気に向けて銃を撃つこともできないだろう。目を潰した程度でへたりこむなんてね」

 それは普通だと思うが、俺の意見は今はいい。目が一生見えなくなるくらいの傷がついてるのだから、この交渉の場を邪魔されることはない。

 ついでに、雪絵さんは俺たちが扉を開けて入って扉を閉じた時、ロックをしてくれたらしい。外の人が入ってこれないようにしてくれた。

 誰にも邪魔できない。

「利き腕は右手だろ? 左手はいらないね」

 お爺さんの左手を斬り落とす。

「ぐわああああああ!」

「三分間だけ待ってあげるよ。それを過ぎれば依頼通り、あなたを殺す」

「ハァハァ、クソッ! あの女に一億かけてるんだぞ?! 一億で足りんなら二億出す! だから儂の依頼を受けろ!!!」

 お爺さんは息も絶え絶えで必死に交渉する。

「値段の問題ではない。どうしても金で解決したければ一兆円出すんだね」

「そ、そんな金あるわけないだろ?」

「だろうね。はい、一分経過」

 優さんは愉しそうだ。俺は見守る。

「くそ! いくら積まれたんだ?」

「一千万だよ」

「ふ、ふざけるな! 儂のが……」

「僕は上級ライセンスを持っている。自分の殺すべきと思う者を殺す。皆月愛ではなく、あなたの方が殺す意味があるから、ここにいる。さて、そろそろ二分だ。答えは見つかりそうかい?」

 ふふふと笑う優さんの笑い声に観念したお爺さんは、項垂れた。

「わ、わかった……。儂も命が惜しい。言う通りにする……」

 手探りのお爺さんに俺はペンを渡し、紙を置いた。ここにサインするようにと言う優さん。

「オッケーだ。念の為写真を撮って送っておいて」

 俺は写真を撮って雪絵さんに送信した。

「それじゃあ、「殺す」のは止めてあげる。声帯と右手は貰っていくよ」

 お爺さんの喉と右手を能力を使い斬る優さん。お爺さんはのたうち回り気絶した。

「雪絵、扉を開けて」

 ロックが開いた瞬間優さんが能力を使い、俺たちはなだれ込もうとして止まった人の中をすり抜けていく。エレベーターは何故か開いている。雪絵さんナイスフォローだ。

 エレベーターの中に入って、能力を解く。人に見られる前に閉じて下に降りる。

 一階に降りると、優さんが能力を使い止まった人の波をかき分けながらドアまで走る。

 ドアを開ける瞬間だけ能力をオンオフし、俺たちは優さんの能力で止まったままの世界を走る。

 時間の概念から外れる能力。この無敵の能力は、殺し屋にとって最高の能力だろう。

 駐車場に着いたところで優さんが能力を解いた。車のドアを開け中に入る。

「お疲れ様。優さん、新太君」

 雪絵さんが労ってくれる。俺は何もしていない。

 俺は運転席でキーを回しエンジンをかける。助手席で優さんは目を瞑っていた。

「雪絵、監視カメラは?」

「全部弄ったよ、大丈夫。それより優さん、本当にいいの?」

 ああ、と言った優さんは俺に手招きした。

「誓約書を雪絵に渡しておいて」

「わかりました。すいません、俺のせいで依頼の金額を減額させてしまって」

 依頼は殺すというもの。それをしなかった優さんは報酬を半額でと、申し出を出した。

 凛さんはその返事に、誓約書が受け取るなら生死を問わない、全額でいいと返事を返してくれたらしいのだが、金額の問題でなく誠意の問題だと、半額でいいと優さんは言った。

「それにしても」

 車を走らせる俺は優さんの笑みを見て、その後に出た言葉に笑った。

「これじゃあ殺し屋じゃなくて、壊し屋だ」

「いっそのこと、転職しませんか?」

 壊し屋、あの日知り合ったあの人は元気だろうか? 人体を破壊するだけで殺しはしないあの人。

 俺は優さんと出会ってから、色んな人に会ったなと、しみじみ思いながら月満家まで車を走らせる。

 家に着いてから、雪絵さんはリビングでパソコンを弄っていた。

「自室でしないんですね」

「情報を優さんと共有する必要があるからねぇ」

 俺たちは処理屋ではなく救急車を呼んだ。運ばれたお爺さんたちは、一命は取り留めたらしい。

 だが翌朝、雪絵さんが二階の自室から駆け下りてきた。

「処理屋が動いたみたいだよ」

 雪絵さんの説明では、お爺さんは消息不明となったらしい。

 理由は、処理屋自体の横流しの汚名返上。殺し屋に依頼し処理したという。

「俺がしたことって、意味なかったのかな?」

 俺はボソリと呟いた。提案しただけなのに、俺はわがままか?

「結果として僕はお爺さんを殺してはいない。及第点だろう?」

 確かにそうだ。人が外で殺されたことまで責任は持てない。

 俺はため息をついて、今日を過ごす。

 今日も留守番。しばらく殺しの仕事はないからだ。

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