第4話
「俺は間違ってるよな」
俺は夢の中でそう呟いた。
「別に間違ってないよ」
夢の中で彼女は言った。
「でもやっぱり、優さんには人殺しをして欲しくない」
「私にも?」
彼女は聞く。
「当然だろ」
それを聞いた彼女はクスクス笑う。
「優しいけど甘ちゃんだよ」
「わかってる」
俺の答えに、顔の見えない彼女は首を横に振る。
「わかってないよ」
俺は悩む。
「どうすればいいんだろう」
夢の中でも悩んでる。
「簡単だよ」
彼女は笑った。
「優さんや私を、??ばいいんだよ」
それを聞いた俺は怒って言った。
「できるわけないだろ!!!」
彼女は舌を出して笑う。
「わかってるよ」
彼女のそんな笑いに俺はため息をついた。
「答えなんてきっと出ないよ。でもあなたが選んだ道が、あなたの答えにはなるんだよ?」
そう言う彼女に俺は頷くと、彼女は唐突に言った。
「あ、そろそろ起きないといけないね。おはよう、新太さん」
「そうか、おはよう。?ちゃん」
俺は夢から覚めた。姫ちゃんはまだ寝ていたが、優さんは起きていた。
「寝たんですか?」
俺は不安になって優さんに尋ねた。
「さっき起きたとこだよ」
優さんの笑みに少しホッとして、俺は準備をした。
時間は零時になる十分前。備え付けの冷蔵庫に入れておいたコーヒーを飲んで、一息つく。
「早いんですね」
晴子さんが起きてきた。出立の準備を始めてくれる。
お金を全て支払い終えて計算し終えた美雨さんはゆっくり寝ている。
雪絵さんはパソコンの明かりの前にいた。
「雪絵さん、寝てないんですか?」
「当たり前でしょ。情報戦では一分一秒が命取りなのよ? この任務では私が鍵だと言っても過言じゃないもの」
確かに情報戦の現在では雪絵さんはキーだ。だが、疲れていては退く時大変じゃないか?
「徹夜なんて別に珍しくないから心配しなくて大丈夫よ」
「すまないね、雪絵。頼むよ」
いつもなら徹夜は止める優さんだが、今回は事情が事情。やむ無しと思っているようだ。
零時を回り、目覚まし時計が鳴る。全員起きた。
「ダメだわ、どうやらオフラインで情報を回してるみたい」
雪絵さんのパソコン画面に出てきたのは指示メールだった。ある場所に集まったところで発表するらしい。
「行くしかないね」
優さんの答えに、俺たちは頷いた。
指定された場所は、別ホテルの大広間。そこには沢山の人が集まっていた。俺たちは、はぐれないようにする。
『よく集まってくれた!』
マイクの音がうるさい。主催者が現れたようだ。
『今日は他でもない、ヤツを殺す気が来た!』
オオオオオオという声で歓声があがる。
「誰だ? 誰を殺せばいい?!」
「一億なら誰だって殺してやる!」
恐らく中級免許者だとこそりと雪絵さんが教えてくれる。
『私はこの日のために上級免許を取得した。これにはとても苦労した。私には殺しの腕はなかったからな』
年老いたその爺さんは、モニターを指さす。
『諸君の標的はコイツだ!』
俺はそれを見て、あんぐり口を開けて呆けてしまった。そこに写っていたのは……。
「え?! アイドルのあの子?」
「チッ、あいつかぁ……」
会場内では二つに分かれた。皆月愛を殺し屋として認識してるものと、アイドルとしてのみ認識してるものの二つだ。
「まぁ、でも一億だから当然だよな」
そんな声が聞こえた。
「壁は大きい方が燃えるってもんだ。ここは殺ってやるか!」
そう言って飛び出していくものもいる。
「どうする? あいつはきついぞ」
「いや、まとめてかかればいけるかもしれん。そのためのこの人数だろう」
そうして会場はどんどん人が出ていく。俺は混乱していた。
「この島にいるんじゃなかったのか? 彼女はどう見ても俺たちと一緒の目的で来てたよね?」
「つまり彼女達はおびき出されたんだ」
説明では潜伏先が、あるホテルだった。そして、人払いは金でしてるから存分に暴れていいということ。
優さんは受けるのだろうか? 俺が考えてると、人が少なくなっていく中で彼は依頼人に近づいた。
「どうした? もう向かっていいんだぞ?」
お爺さんはマイクを外し言う。
「もしも僕の気分が乗らなかったら依頼を放棄してもいいのかな? 放棄した場合リスクはあるかい?」
優さんの台詞にお爺さんはため息をつきながら言った。
「本当なら放棄はして欲しくないが、リスクは書いてなかったじゃろ? だから別に放棄しても構わん。一億がいらんと言うのならな」
頷いた優さんは、もう一つ、と言う。
「あなたは大切な誰かを彼女に殺されたのかな?」
優さんの問いにお爺さんは頷いた。
「ワシの大切な孫が殺された」
そして、最後にと、重要なことを「でまかせ」を入れて聞いた。
「依頼人のあなたの名前を聞かなきゃ、依頼を受ける受けないを決められない。答えて欲しい」
依頼人の名前なんて本来どうでもいいはずなのに、優さんは聞く。お爺さんは名前を答えた。
そして、結局俺たちは会場を出た。
「雪絵、どうだい?」
「うん、やっと謎が解けたよ」
俺たちはホテルに荷物を取りに行きながら、雪絵さんの解答を聞く。
お爺さんはある汚職政治家の父。孫は確かに殺されていたが、犯人は不明とあったらしい。だが、調査の結果、殺し屋の皆月愛に殺されているのがわかったようだった。
そこまでなら依頼を受けてもいいはず。だが、優さんは放棄すると僕らに言った。
理由は簡単だった。皆月愛が、悪人殺しの殺し屋だったのだ。
「別に、向かってくるなら殺してもいいんだけどね。殺すべきと思えるほど彼女を殺す気はおきない」
実際、殺された孫も悪事を働いていたと雪絵さんの情報で聞いた。金で女を取っかえ引っ変えして遊び回していたらしい。
孕ませても父の権力で口封じ。だから汚職政治家というわけだ。
「多分、神道組の逆鱗に触れたかして、皆月愛に引っかかったんだね」
相手が優さんと同じ悪人殺しであれば、殺される方が悪いというのが優さんの結論。
悪人は滅ぶべき、それが優さんなりの考え。優さんは自分を善人と思っていないが、例え自分が血にまみれても悪人はこの世から消すのが彼の道だ。
一応殺し屋だから殺されても文句は言えないが、殺し屋だから殺すという結論にも至らない。
自分の目的と合わぬのならば、優さんさらするとそこまでして欲しい金でもない。資産は何億もある。
むしろそこまで恨みを買う悪人ならばという目的で来たのだから、ある意味肩透かしである。
俺たちはホテルに着いて荷造りし、「念の為」待たせていた漁船に連絡する。幸い海は荒れておらず、着いたら送ってくれるといわれた。
荷物を晴子さんと美雨さんと雪絵さんに分担して持たせ(これは俺は反対だったが、俺は身軽に動けた方がいいという優さんの判断だった)港へ急ぐ。
途中のことだった。一人の赤いワンピース姿の女の子が血まみれで立っていた。俺は声をかけようとして思わず口を閉じた。
そこに転がっていたのは、もっと血まみれの男たちの死体だった。
「ふふふ、あとでもっと、もっともっともっと! 愛してあげますから待っててくださいね♡」
彼女は恍惚としていた。そして俺たちに気づいた。
「あらぁ? 船ではどうも。あなた達も私に愛されに来たんですねぇ♡」
ゾッとした。殺意を向けられたことはある。それとは別。まるでねっとり粘りつくかのような死線。俺は慌てて言った。
「俺たちは君を殺す依頼を放棄してるんだ! ここで戦う必要はない!」
その答えに、だが彼女は首を傾げた。
「そうなんですかぁ? じゃあなんで……、刀に手を置いてるんですかァ?」
戦う意思がないのに武器に手を添える。俺はハッとした。無意識で恐怖して刀を抜こうとしてしまった自分に、やってしまったと舌打ちした。
「うふふ、嘘はいけませんねぇ。悪い子は……、いっぱい愛す。ああ、ああああ……。好き、好き好き、好き好き好き好き好き、愛してあげるぅ!」
彼女は、ワンピースの内側から身長の半分くらいある大きなナイフを取り出し、襲いかかってきた。
そんなものどうやってしまってたんだ! なんて考えてる暇はない。俺はすぐさま皆から離れた。
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