第3話
船での時間は窮屈なものだった。色んな人が乗っていたため、全員殺し屋なのかそうでないのか俺にはわからなかった。そのため、単独行動せず常に固まって動いた。
そこそこ大きめな船なので、客室も少しだけ広い。客室の数自体は多くないから、相部屋になる人もいるだろう。俺たちは全員同じ客室を予約している。
早く降りたい。そう願っていると、客室のドアがノックされた。
優さんの方を見ると頷いたので、俺が出る。
「はい。誰ですか?」
ドアを開けると、二人の女性が立っていた。一人はアウトドアに着ていくようなジャケットとパンツ、もう一人は小柄で赤いワンピース。
二人はにっこり笑って、こう言った。
「島に着くまでトランプでもしませんか?」
俺たちは六人。二人加えると八人になる。だが、多くなっても楽しいものだった。
緊張が走っていたからそういう発想が出なかったのか、二人の提案はとても有難いものだった。
時間はあっという間に過ぎて、下船の準備を始める。
二人はあえて名乗らなかった。こちらもあえて名乗らなかった。船を降り、別れてから雪絵さんが言った。
「神道組組長、神道凛。もう一人は殺し屋、皆月愛ね」
く、く、く、組長?! その道の人?! あのポニーテールの気前のいい人が?!
そして、ワンピースで笑顔の可愛らしい女の子が殺し屋?! ていうか皆月愛って、どこかで聞いたことのあるような……。
「アイドルの皆月愛ちゃんと同一人物なのかしら?」
晴子さんが雪絵さんに問う。そういえば見た目もそっくりだった気がしてきた。
「兼業でアイドルをしてるみたいだね。人気の子だよ」
表でアイドル、裏で組の殺し屋、それが皆月愛ちゃんだそうだ。全然そうは見えなかった。
どうやら護衛の人間が何人もいたらしい。美雨さんは、お金目的なら充分有り得るとのこと。
確かに懸賞金一億だ。誰が掛けられているのかわからないらしいが、それだけ払ってもらえるというのなら来て当然。
もしかしたら護衛の人が堅苦しくて、遊ぶ相手に俺たちを選んだのかもしれない。
「情報収集だと思うけどね」
雪絵さんは携帯端末で何かを打ち込みながら言う。
指示が出て、今日はホテルに泊まることになる。今日中に役者が揃うらしく、包囲網は万全にするため、明日決行とのこと。
「悠長にしすぎじゃないか? 気づかれて逃げられるんじゃないの?」
俺は思ったことを言った。優さんも同意見だったが……。
「依頼人の機嫌を損ねると懸賞金を下げる可能性もある。大人しく従おう」
そう言い、ホテルでくつろぎ始めたから、俺たちもそれに倣う。
ホテルから出された食事にまず姫ちゃんが匂いを嗅いでいく。無臭でも毒物が混入していたら分かるらしい。
「大丈夫。安心して食べていいよ」
「助かるよ。流石に僕も毒まではわからないからね」
優さんは姫ちゃんに感謝を述べ、食事をする。俺たちも腹いっぱい食べた。
ここは無人島とかではなく、観光地である。ただ、それほど広い島でもなく、車が必要なほどではないらしい。ホテルや飲食店が立ち並び、ビーチでは人が溢れていた。
美雨さんが、ホテルの人とお金の話をつけてる間、晴子さんがホテルのコインランドリーで俺たちが着てきた服の洗濯をする。
優さんと俺と姫ちゃんは明日の話をする。
「今日は早く寝て、明日零時に起きること」
「わかった」
優さんと姫ちゃんの会話に俺は驚いた。
「零時? なんでそんな早くに……」
「依頼人は明日決行と言ったんでしょ? なら、明日が始まった時点で夜中に集まれと言うかもしれない」
なるほど、朝を迎え夜を待つ必要はないということか。
ここに来るまで、刀を腰に提げていても、模造刀だろうと思われていたのか誰にもツッコまれなかった。
だが血のついた刀を持っていれば、当然疑われる。夜の方が騒がれない。いくら殺し屋免許を持っていても、公の場で殺すのはマナー違反だ。
暗殺が望ましいのは当然だろう。
優さんは、明日指示が出た時点でターゲットを殺し、金を受け取りこの島を出ると、そう言った。
「優さん……」
「君の中の、僕を認める気持ちと、人殺しを認めたくない気持ちがあるのは知ってる。だが、今の実力で僕を止めるのは無理だし、ついてきた時点で同類だといつも話しているだろう?」
俺が偽善者なのはわかってる。ここまで来たのに殺すのをやめてくれと言うのは筋違い。
せめて、俺は俺の着地点を探したくてついてきてる。例え、人殺しの同類と呼ばれようとも。
「寝ましょう。明日は早いのだから」
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