第7話
凛さんは語る。愛ちゃんの昔話を。
「あいつの話をしても、あいつは嫌がらないから、全部話してやる。ところどころ、俺様の想像も入ってるのは許せよ」
シングルマザーの子供として産み落とされた愛ちゃんは、三歳の時母親の奇行を目にしていたという。
「おそらく、母親は初級免許を持っていた。浮気した新しい彼氏を家で刺しまくっていたんだ」
それが日常。愛ちゃんが母に尋ねた。どうしてこの人真っ赤なの? と。すると返答はこうだった。お母さんが愛したからだよ、と。愛ちゃんを抱きしめた母親の温もりは温かかったらしい。愛ちゃんが五歳の時、愛ちゃんは初めて人を殺した。母親を愛してしまったのだという。
愛ちゃんの元に転がっていた母親の死体は刺傷まみれだったようだ。愛ちゃんのことを引き取ろうとする人間がいなかったが、一人の男が名乗りを上げた。
そいつは殺し屋だった。愛ちゃんの才能に魅入られ、殺しの技術を教えていく。そして愛ちゃんは八年後、十三歳の時、その師匠を愛した。
転がる死体。師匠を超えた証。血が尽きるまで刺し続けた愛ちゃんは、次の愛へと向かう。
十歳で最年少の上級殺し屋免許を手にしてしまった愛ちゃんは、少年法に引っかかることもなく、ふらりふらりと浮浪の旅。
殺し屋組織が目をつけ仲間に入れるが、愛ちゃんが愛すると壊滅する組織。付いたあだ名がブラッドプール。
そうやって組織を壊して回っていた愛ちゃんだが、依頼も受けたりしていたらしい。
生活のため、お金を稼ぐのに愛すことを覚えていた愛ちゃんは、依頼で神道組組長の暗殺を依頼される。
そこでその時既に組長は父親から凛さんが引き継いでいた。
「俺様は、明らかにやばいやつが来たと思ったよ。だが、あいつは俺様を見て言ったんだ」
───あ、だめだぁ。百合になっちゃう。
「女を殺しちゃいけないと教わっていたのかは知らない。だが、あいつの中でどうやら、俺様は対象外だったらしい」
だから、凛さんは言った。親友にならないか? と。それが一年前、今愛ちゃんは十五歳。
「愛は善良な市民だと殺さない。それは殺し屋の師匠から受け継いだものかもしれんな」
俺は殺されかけたんですけど。まぁそれは刀を持ってたせいでもあるから、仕方ない。
「とにかく、あいつの話はここまでだ。なんで狂ったかくらいはわかったろう?」
「同情しろとでも?」
俺が言うとニヤリと笑う凛さん。
「同情の余地があると思うか? 周りが狂ってたから狂ってしまった。それだけだ。暇つぶしだよ、暇つぶし。それにあいつのことを知れば、この先、俺様たちが行動を共にする上で、少しはやりやすいだろ?」
凛さんはカラカラと笑う。
「凛さんの話を聞いても?」
優さんが口を開く。
「別に大したもんじゃねぇよ。親父とお袋が殺されたから組長を引き継いだのが二十歳の時。上級免許を手にするのは大変だったが、取得して今二十五歳だ」
凛さん同い年だったのか。
「お前らの話も聞かせろよ」
俺の話……。とてもつまらない話だ。職を転々として定職に就けずにいた俺は、肉親の母が交通事故で亡くなった後、親戚が見つからず、様々なお金を要求されて逃げた。借金は何故か一千万あったらしく、死を覚悟した。
優さんが救ってくれて拾ってくれなきゃきっと死んでいた。借金も肩代わりしてくれたからな。
それを話すと、凛さんは爆笑する。
「不幸な人生だが、それが操作された人生だったらどうする」
「え?」
「なんでもない。気にするな」
凛さんは優さんの方を向き、尋ねる。
「お前さんは?」
優さんはふっと横を向き言った。
「そろそろ着きますね」
「今俺様に話す気はないってことだな」
実際もうすぐ着く時間だ。
俺は優さんの過去を前に聞いた。優さんも壮絶な過去を持っている。
俺は、愛ちゃんと優さんが似ていると思った。優さんは俺の視線に気づき笑う。
「降りる準備をするよ、新太君」
「はい」
俺たちは船を降りて、凛さんの車に乗り込んだ。
「送ってくぜ?」
近くまで乗せてもらってから、二人で降りる。
「いつでも連絡してくれていいぜ、コチラからもまた依頼させてもらいたい」
凛さんは優さんに名刺を渡した。
「お別れヤダ! 愛させてよぉ!」
愛ちゃんが助手席でじたばたする。
「また会えるさ。そうだろう?」
「ええ、また近いうちに」
俺はもう愛ちゃんに会いたくないが。
凛さんたちと別れてから、優さんが笑った。
「正直愛ちゃんは悪人殺しだと思っていたが、そうでもないのかもしれないよね」
「どうしてですか?」
「君が狙われたから」
俺はハッとした。
「もしくは殺しまではするつもりがなかったのか。まぁ殺されたら堪らないから、これからも彼女にはハグさせられないね」
ニッコリ笑う優さんは歩き出す。二時間ほど歩いて、ようやく家にたどり着いた。
「おかえりなさい。ご飯もお風呂も用意してあります」
晴子さんが笑顔で出迎えてくれる。これでこの件は一件落着か……。
席に着いてご飯を食べながら、しみじみと生を実感した。
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