山奥に引きこもる異能少女と大型わんこ系若武者の平安恋絵巻
「好きだ! 俺と夫婦(めおと)になってくれ!」
時は平安。訳あって鬼も住んでいる山奥で暮らす更科姫。ある日そこへやってきた鬼討伐の若武者。物の怪たちの力を借りてその若武者を投げ飛ばしたらなぜか求婚されてしまった!?
それからその若武者は、贈り物を持って更科姫のところに求婚にやってくるようになるのだけれど、更科姫は困って追い返す。それでも若武者はめげずにやってくる。
そんな、若くして田舎の山奥に引きこもっている少女と、ちょっと強引な若武者の、恋のお話。
以下、カドカワ読書タイム短編児童小説コンテスト応募のためのキャラクター設定とプロットです。
※ネタバレ注意
▼キャラクター設定
主人公
更科姫(さらしなひめ)・さら
15歳
元は奥州会津の大納言の娘。田舎育ち。幼い頃は野山を駆け回って遊んでいた。
また、物の怪と心を通わせることができる。山の天狗とも仲良くしていた。その頃に天狗から薬草などの知識を教えられていろいろと知っている。
琴の演奏が好きで、得意にしている。
一緒にいる猫の苗(みょう)は奥州からついてきた物の怪。猫の姿を取っているだけで、猫ではない。更科姫の相談相手になっている。
平維茂(たいらのこれもち)・余五君(よごのきみ)
19歳
平兼忠の子で平貞盛の養子。十五番目の養子のため余五君(よごのきみ)とも呼ばれる。祖父が皇族。
馬に乗ったり刀や弓の稽古をするのが好きで、貴族の歌を贈りあうような文化にはあまり馴染めていない。
恋愛に明け暮れる貴族文化を理解できないものとして遠巻きにしている。貴族の女性からよく文が届いているが、どう返事すれば良いのかもわからずにいつも放置している。
本人は、武士なのだから馬や武具の扱いができればそれで構わないと思っている。
▼長編化した際のプロット
冷泉帝の御代。関東で平将門が乱を起こしている時代。
◆右大臣・源経基の奥方に仕える侍女の更科姫は、奥方を殺そうとしていると疑いをかけられて都を追放される
更科姫は元々は奥州会津の大納言の娘だった。山の中を遊びまわるような快活な姫だったが、琴の腕前が評判になり、右大臣の源経基の奥方から侍女にと請われて京へと呼ばれた。
初めての京に期待を膨らませていた更科姫だったが、貴族の侍女としての生活は大変なものだった。特に後ろ盾もなく京の事情にも疎い更科姫は、侍女の中でも浮いてしまい、悪い噂を立てられるようになってしまう。
折悪く、奥方が病がちになってしまう。更科姫は奥方が元気になるようにと持ち前の知識を活かして薬草を煎じていたが、他の侍女たちに「毒を盛っている」と噂されてしまう。
また、更科姫は物の怪と心を通わせることができ、右大臣家を守るように物の怪に頼んでいたが、そのような姿が「怪しげな術を使う」という噂にも繋がってしまう。
更科姫が違うと言っても話は聞いてもらえず、周囲の大人たちの悪意に更科姫は深く傷ついてしまう。
そして、更科姫は京から遠い信濃(しなの)の国の鬼が住むと言われている戸隠(とがくし)という場所に追放されることになる。
更科姫は奥方様にいただいた琴を置いてゆくことを心残りに思う。
◆戸隠に到着した更科姫は、貴族の生活にうんざりし、幼い頃に野山を駆け巡って遊んでいた頃を思い出し、貴族とは関わらずにのんびりと生きてゆくことを決意する
戸隠に放り出された更科姫は、山の物の怪たちにも助けられて一晩をしのぐ。翌日、山の中をさまよっているうちに、怪我をした鬼の子供と出会い、傷を手当てする。
その後、傷の手当をした子供に連れられて戸隠に住む鬼たちの集落に辿り着いた。そこには、人間から隠れ住む鬼たちや、他で迫害されたり事情あって逃げてきた者たちが集まって暮らしている場所だった。
警戒する集落の者たちだったが、更科姫が助けた子供は助けてくれたお礼にと自分の家に案内してくれる。
そこで居候をしながら、更科姫は薬草の知識や物の怪の力などで集落の者たちの暮らしを助けるようになる。その中で、自然と打ち解けるようになる。
集落の暮らしは落ち着いていて、貴族生活でいじめられることに疲れていた更科姫は、ここでのんびりと暮らしていきたいと思うようになる。
◆平維茂が戸隠に暮らす鬼を討伐しにやってくるが、更科姫に出会って恋に落ちる
更科姫は、鬼退治の武士たちがくることを物の怪たちから聞いて、集落の者たちを山の奥に逃す。そして自分は物の怪たちと一緒に平維茂とその供の者たちを迎え撃つ覚悟をする。
物の怪たちは維茂が進むのを邪魔するが、維茂はそれを意に介さず先に進んで更科姫のところまでやってくる。
更科姫は「ここには討伐されないといけないような鬼はいません」ときっぱり維茂に言ってみせる。そして、物の怪の力を身に宿して、維茂を投げ飛ばす。
維茂は、可憐な少女が自分を投げ飛ばしたことに衝撃を受け、恋に落ちる。
その場で維茂は「俺と夫婦になって欲しい」と更科姫に求婚するが、更科姫は意味がわからずにそれを拒否する。
◆平維茂が更科姫のところに贈り物を持ってきて求婚するが、更科姫は維茂のことを鬼を討伐にきた武士だと思っているのでそれを受け取らず拒否する
一度引いた平維茂だが、それから日をおかずにまたやってくる。物の怪たちは追い返そうとするが、維茂はそれを突破して更科姫のところにやってくる。
そして更科姫のところにやってきて、文や贈り物を差し出す維茂。更科姫はそれを拒否する。
更科姫は、右大臣家で誰にも話を聞いてもらえず、請われて京に言ったのに追い出されたことで傷ついている。そのため、維茂の気持ちも信じきることができずに、きっと心変わりするだろうと思っている。
維茂はそれでもめげずに、何度も更科姫のところにやってきては、贈り物を差し出したり更科姫を褒めたりする。
更科姫は京で薬の知識を「毒」だと言われたり、物の怪と話しているところを見られて「呪い」だと言われたりして気味悪がられて、それに傷ついていた。
しかし維茂は更科姫のそういった知識や能力も「すごい」と無邪気に褒める。気味悪く思わない維茂に、更科姫は戸惑う。
◆何か欲しいものはないかと問う維茂に、更科姫は「右大臣家に置いてきた琴が欲しい」と良い、維茂は琴を取りに京に向かう
何も受け取ってくれない更科姫に、維茂は「欲しいものはないのか」と問う。更科姫は「何も受け取るつもりはない」と答えるが、維茂が「京にしかないものでも手に入れよう」と言うのを聞いて、右大臣家に置いてきた琴を思い出す。
更科姫は、維茂でも右大臣家の琴を持ってくることはできないだろうと考え、「右大臣家に置いてきた琴が欲しい」と維茂に伝える。
そして、その琴を持ってくるまでは維茂に会わない、とも言う。
維茂はそれを了承し、「また来る」と言い置いて去ってゆく。
維茂が来なくなって更科姫は落ち着いた生活になるが、少し寂しくも思っていることを自覚する。
◆維茂が琴を持って戻ってくるが、更科姫は右大臣家でのことを思い出して琴が弾けない
一と月ほど経って、ようやく維茂が戻ってくる。
物の怪たちは久しぶりにやってきた維茂を追い返そうとするが、維茂が琴を抱えていると知った更科姫は、琴が気になって物の怪たちを止め、維茂を迎え入れる。
更科姫は維茂を自分が暮らしている家に案内して、琴を受け取る。
心残りだった琴があることに戸惑う更科姫。そして琴を見ているうちに、右大臣家でいじめられた出来事を思い出してしまい、不安や恐怖に手が震えてしまう。
更科姫は「せっかくの琴だけれど、自分はもう弾かないからやっぱり持って帰ってくれ」と言う。
維茂が「琴の演奏が好きだと聞いた」と言うが、更科姫は「今はもう好きではない」と言う。
更科姫はさらに「好きという気持ちはこんなに簡単になくなってしまう。維茂さまもきっと、すぐに心変わりします」と言う。
維茂は「それでも、せっかくだから」と琴を置いてゆく。
◆人間の山賊が集落を襲いにきて、維茂は更科姫を助け、山賊たちを捕らえる
更科姫が物の怪から山賊たちが襲いにくることを聞いて、みんなを避難させようとするが、間に合わない。
子供を庇う更科姫のところに京から戻ってきた維茂が駆けつけ、助ける。
山賊たちを捕らえたあと、維茂が「怖い思いをしただろう」と更科姫を慰めようとするが、更科姫は強がってみせる。
維茂は更科姫の強がりを見抜き、震える手をとって、落ち着かせようとする。
更科姫は「どうせ心変わりするなら、最初から構わないでください」と維茂を拒否する。
維茂は「どうやったらお前の傷が癒えるかわからないが、それまでお前の隣にいたい、お前がもう傷付かないよう守りたい」と伝える。
維茂の言葉に心動かされて泣き出す更科姫。
維茂は泣き続ける更科姫を隣で静かに見守る。
◆更科姫は維茂の気持ちを少しだけ受け入れ、琴を演奏する
いつものように文を届けにきた維茂を、更科姫は家に案内する。
更科姫は右大臣家でのことを思い出すが、側で維茂が聞いていることを心強く思い、琴の演奏を始める。
かくして、戸隠の鬼の正体は人間の山賊であった、ということになった。その一帯からは鬼がいなくなったとのことで、鬼無里村と呼ばれることとなった。