天翔る翼は刃となりて哀しみを狩る

実在するボードゲーム「禽将棋」を題材にした唯一無二の小説です。

戦さ場に生まれし鵼(ヌエ)は、其の猛き翼、尚も乾かざる間、渦中に舞う。

疾風か紫電か、流れ堕つる星か、高速で飛び交う禽の群れは、敵味方、見境なく、荒ぶる魂に鋭き鉤爪を研ぐ。

此処は死闘の最前線、此処は逃げ場なき天穹。滑空する翼は孰れも、妖しく煌めく刃に似て、其の命は孰れも儚く見える。

裏切りか、然もなくば墜落か、鵼は懊悩し、戦慄する。此処は死線、此処は闘いの庭。其の翼の憩う場、止まり木もなけば葉蔭もない。

敵陣と本陣、或いは陰と陽。目紛しく変わり、裏返る。此処は千変万化の無限の戦さ場。其処に護るべき者、崇め奉る者は座すのか。

天守閣遥か遠く、俯瞰するも仰ぎ見るも、詳らかにならず。鵼は想う。我は駒に非ず、と。鵼は識る。激闘は唯の一局に非ず、と。