戦後と現代を軸に、やがて物語は糸を織るように合わさってゆきます。
Web小説でなかなか読めないものを提供して下さる一人、きょんきょん氏。今回も期待を裏切らない作品でした。
2つの時代を生きるそれぞれの主人公が、ふとした偶然の重なりにより、思いもよらぬ形で邂逅します。
ただ毎日を生きることも、ままならなかった戦後の上野。人生まさしく一期一会とも言うべき、出逢いと別れの繰り返し。必死で掴もうとするも、為す術なく糸がバラバラに解けてゆく絶望。最後に遺された一縷の望み。
毎度綿密な裏付けによる、細やかな描写に唸らされますが、今回の戦後表現は特に鮮烈なものがありました。
あの絵が、そして激動の時代を生き抜いた全ての人々が、どうか安らかに眠らんことを。
大河ドラマで見るような、戦後の光景から物語は始まります。
その場の空気や匂い、温度までもが伝わってくる緻密な描写に圧倒されました。
すえたどぶ川に、血と硝煙と、人々の汗のにおい。
まるでその時代を思い返しながら描かれたような重厚さです。
登場人物が本当に存在していたかのようで、思わず検索で調べてしまったほどです。
物語は現代にも飛びます。こちらはよく知るライトな光景で、少し肩の力が抜けます。
戦後パートから移動すると、タイムスリップでもさせられたかのような戸惑いと共に、空気の軽さと清浄さにほっとさせられます。
一枚の絵を巡り、戦後と現代を行き来する物語。
人々の命を強く感じました。