「私を殺してください」
そう公爵に告げたリゼット・バルテ。
彼女は生まれつき魔力量が多かった。そんな彼女がマニフィカ公爵邸へ行き、公爵令息ヴィクトルと婚約したのは5歳のこと。
公爵家の名に恥じない魔法使いになるだろう。そんな大人たちの勝手な期待に応えるべく彼女は努力した。しかし彼女の才能は開花することはなかった。
役立たずのままでは家名に傷がつく。だが幼少期に家を出た自分に帰る場所などない。
役立たずに告げられた婚約破棄を受けて出した答えは『死』だった。
重いスタートから始まった物語でしたが、重いだけでなく、散りばめられた謎や、登場人物の可愛らしいやりとりなど、つい続きが読みたくなる要素が詰め込まれていました。
また主人公以外の視点で書かれている部分も多々あり、主人公視点では知り得ない感情が物語に深みを出しているように思えました。
切なさと、初々しさと、ついニヤけてしまう甘さ。そんな様々な要素が詰め込まれた素敵な物語を是非ご覧ください。
身分低い上に自分の才能が活かせない主人公と、責任ある地位で竜と対峙しなくてはならない婚約者。
この二人のすれ違いによる、悲しい恋のお話だ。
とにかく、二人が互いを思い合ってるのが文章からひしひしと伝わる。伝わるからこそ、この二人がすれ違う様はなんとも悲しい。
何度登場人物に向かって、「なんで言わないんだよぉおお」と思うが、そんなこと相手に言えないというのも理解できる状況なのだ。
だからこそ、歯痒く、悲しく、どうしてなんだと思ってしまう。
この主人公が、子孫に拾われた後どうなるのかと、一読者として本当に読みたい。
そして、このお話を読んだ子どもたちは、是非「言葉で伝える大事さ」を学んでほしいと思う。
特異な魔力量で公爵令息ヴィクトルと身分違いな婚約をさせられてしまう伯爵令嬢のリゼット。ヴィクトルの家には竜の大移動から人々を守る責務があった。だから大人たちはまだ5歳だったリゼットを婚約という形で公爵家へ縛り付け、魔法の訓練をさせた。兵器として見初められたとわかっていても、ヴィクトルに認められたくて努力し続けるリゼット。しかし膨大な魔力に反して彼女に魔法の才能はなかった。それを理由に婚約破棄を迫られるのだが、ヴィクトルには別の考えがあって――。
竜の大移動で蹂躙される人間という設定がまだ若いヴィクトルとリゼットの外せない枷となって、物語に厚みを持たせていると思います。有木さんの書かれる作品にはこういったリアリティのある要素が盛り込まれているので、甘すぎずするりと飲み込めます。
死を選んだリゼットに「生きてほしい」と願ったヴィクトルが取った行動。そしてラストの演出に胸が締め付けられました。できれば二人で幸せになってほしかった。大きいものは近すぎると見えないものです。ヴィクトルのリゼットへの愛情も、きっとそうだった。それでも、彼の面影を残すもう一人の少年の前で目覚めたリゼットが、今生こそ幸せになれることを願っています。