人形となって時代を越えた先で、本当の愛を知る。

特異な魔力量で公爵令息ヴィクトルと身分違いな婚約をさせられてしまう伯爵令嬢のリゼット。ヴィクトルの家には竜の大移動から人々を守る責務があった。だから大人たちはまだ5歳だったリゼットを婚約という形で公爵家へ縛り付け、魔法の訓練をさせた。兵器として見初められたとわかっていても、ヴィクトルに認められたくて努力し続けるリゼット。しかし膨大な魔力に反して彼女に魔法の才能はなかった。それを理由に婚約破棄を迫られるのだが、ヴィクトルには別の考えがあって――。


竜の大移動で蹂躙される人間という設定がまだ若いヴィクトルとリゼットの外せない枷となって、物語に厚みを持たせていると思います。有木さんの書かれる作品にはこういったリアリティのある要素が盛り込まれているので、甘すぎずするりと飲み込めます。

死を選んだリゼットに「生きてほしい」と願ったヴィクトルが取った行動。そしてラストの演出に胸が締め付けられました。できれば二人で幸せになってほしかった。大きいものは近すぎると見えないものです。ヴィクトルのリゼットへの愛情も、きっとそうだった。それでも、彼の面影を残すもう一人の少年の前で目覚めたリゼットが、今生こそ幸せになれることを願っています。

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