紫式部ちゃんと清少納言さん

海石榴

一話完結 えっ、宮廷の才女バトル!?

 紫式部ちゃんは、ご存じ『源氏物語』の作者ですね。

 片や、清少納言さんは、春はあけぼのではじまる『枕草子』の作者で、紫式部ちゃんより、ややというか、かなり年配。


 二人ともバリバリの才女で、一条天皇のおきさきさまとなる方の教育係(女官)をつとめます。

 先輩の清少納言さんは、藤原道隆の娘定子ていしちゃんの家庭教師。後輩の紫式部ちゃんは、藤原道長の娘彰子しょうしちゃんの家庭教師。

 女官というまったく同じような立場の才媛二人。何かきっかけがあれば、バトル勃発と相なるのは、当然のことといえましょう。


 先に仕掛けたというか、誤解を招くようなことを仕出かしたのは、先輩の清少納言さんでした。

 自著の枕草子の中で、紫式部の旦那さま藤原宣孝のぶたかさんが、熊野詣でに行った折の装束について、「もしかして派手すぎ?すれ違う参詣の方々もおやっ?ていう顔をしてましたよ」なんて、アッケラカンと書いてしまったのです(つい筆がすべっただけで、全然悪気はなかったのかもしれません)。


 しかしながら、これに激オコした紫式部ちゃん。

 自著の紫式部日記でやり返します。

「ふん。清少納言なんてさ。教養ありげに真名まな(漢字)なんて書き散らしているけど、よく見たら間違い多いし、全然、大したことないじゃん」

 これに続けて、

「ま、こんなことじゃ、先々、いいことなんかあるわけないっしょ。もしかして落ち目になるんじゃないの」

 いやはや、すごい毒舌です。


 また、ある日、紫式部ちゃんは、牛車ぎっしゃに乗っている清少納言さんを偶然見かけ、またもや紫式部日記に、こんなことを書き込みました。

「なんだ。髪の毛の白くなった40過ぎのただのオバサンじゃん。幻滅ぅーっ」「あーあ。おみなとは早くみまかるべきものなり」


 つまり女は美しいうちに早く死んだほうがよいと、醜い姿をさらすものではないと、痛烈に非難しているのです。  

 この平安時代は女性が40過ぎて生きていると、なんと!批判の対象になりました。宮廷での女官は、若く美しくなければならないという考え方が根強くあったのです(人権意識なんてないトホホの時代で、当時の女性の平均寿命は27歳という説もあります)。

 紫式部ちゃんのこの批判は、自分も女性であり、やがて同じように老いるのだということをすっかり忘れています。それほど、清少納言さんに対してライバル意識を燃やしていたということでしょうね。


 ちなみに紫式部ちゃんの『源氏物語』の主人公は、申すまでもなく光源氏さまですが、この架空の人物のモデルは、栄耀栄華を誇り「この世をばわが世とぞ思う望月の……」と詠んだ藤原道長さまといわれています。

 この世にあろうとも思われないほど眉目秀麗、いとやんごとなき方の御曹司を中心に多くの女性が繰り広げる絢爛たる王朝絵巻。

 来年の大河ドラマは、稀有な天才作家である紫式部ちゃんをどのように描くのでしょうか。 


――了

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紫式部ちゃんと清少納言さん 海石榴 @umi-zakuro7132

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