訳者あとがき

解説とネタバレ感想とオペラ版のこと

 なぜ、8月20日に連載をスタートしたかというと、最推しのシャルル七世が本作で初めて登場する日(ヤクーブの裁判記録の日付け)だから。


 冒頭の『はじめに』と少々かぶりますが……。

 本作は、アレクサンドル・デュマが作家として駆け出しのころに書いた戯曲(演劇用のシナリオ)を日本語に翻訳した作品です。1831年10月21日、オデオン座初演。原題は『Charles VII chez ses grands vassaux』、全五幕の史劇・悲劇です。


 調べたところ、1909〜1910年の公演が最後のようですね。フランス近代文学を代表する大作家の初期作品でありながら、二十世紀初頭以降、演劇・文学・歴史家から忘れられたタイトルであることがうかがえます。


 その一方で、イタリアの作曲家ガエターノ・ドニゼッティが1832年に『ヴェルジーのジェンマ(Gemma di Vergy)』というタイトルで本作をオペラ化しており、こちらは現在もたびたび公演しているようです。

 なお、サヴォワジー伯爵はヴェルジー伯爵、ベランジェールはジェンマ、ヤクーブはタマス……とイタリア風に変更されている上、原作では主人公のシャルル七世がオペラ版では一切登場しません!

 かろうじて出てくる百年戦争関連のエピソードは、ジャンヌ・ダルクの話に置き換わっているとか。


 ある物語が外国向けにローカライズされるのは、本作に限ったことではなく、よくある話です。

 また、シャルル七世に限らず、家臣たちそれぞれの活躍がことごとくジャンヌの功績に置き換えられるのもよくある話で、私は見かけるたびに複雑な心境になるのですが、特に本作(原作)ではジャンヌは一瞬も登場しないのにそうなるのかぁ……。


 シャルル七世推しの私としては、オペラ版の設定変更がものすごーーーーく残念。しかしながら、デュマ自身による本作あらすじが「見下された女が、愛していない男を使って愛している男を殺す」ですからね。

 ようするに、原作自体がシャルル七世サイドの歴史劇よりも恋愛・復讐劇のほうがメインストーリーなのでしょう。


 しかし、原作者のデュマとオペラ作家のドニゼッティの意図がどうあれ、私は本作のシャルル七世のキャラクター造形と解釈をとても気に入っています。暗君のようでもあり賢君のようでもある、何も考えてないようで複雑な生い立ちと折れない信念を持っている。


 個人的な解釈になりますが、拙作『7番目のシャルル』シリーズのシャルル七世は、祖父・賢明王シャルル五世の「知性」、父・狂人王シャルル六世の「繊細さ」、母・淫乱王妃イザボー・ド・バヴィエールの「自覚なき誘惑者」をハイブリッドしたキャラクターを想定しています。うまく書けてるかは知らんけど。

 だって、ただのバカ王子が100年続いた戦争の最終勝者になり、二つ名「勝利王」と呼ばれるようになるのは、ちょっと考えられないんだもの……。


 残念ながら、ほとんどの物語で、ジャンヌ・ダルクの引き立て役か、ジャンヌを見殺しにした悪役のような扱いをされることが多いです。

 だから、というだけでめっちゃテンション上がるし、本作は間違いなく「読む価値がある」物語です。


▼関連作『暗愚か名君か、ジャンヌ・ダルクではなく勝利王シャルル七世を主人公にした理由』:

https://kakuyomu.jp/works/16816927859523082422/episodes/16816927859523104022



 ちなみに、シャルル七世推しが高じて、シャルル七世が登場するパブリックドメインの未邦訳作品を自力で翻訳したのは今回で二作目。

 一作目のデュマ・フィス作『神がかりのジャンヌ・ダルクと悪魔憑きのトリスタン・ル・ルー(原題:Tristan le Roux)』はカクヨム連載終了後に、改稿して電子書籍・ペーパーバックを刊行したので、本作もいずれは一冊の本としてまとめたいと考えています。


 もし、本作をきっかけにシャルル七世に興味を持った方がいらっしゃるなら(ありがとうございます!)、下記タイトルをご一読いただくと理解が深まるかもしれません。シャルル七世とデュノワの幼なじみ主従の生い立ちとかね。

 デュマのシャルル七世のセリフ「愛しのデュノワ! 私の勇者デュノワ!」を見つけた時、にやにやが止まらなかった……。めっちゃ言いそう。デュマ先生と解釈が一致!!


▼【完結】7番目のシャルル、狂った王国にうまれて 〜百年戦争に勝利したフランス王は少年時代を回顧する〜

・カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/16816927859447599614

(青年期編:https://kakuyomu.jp/works/16816927859769740766




 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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https://kakuyomu.jp/works/16817330656738524583#reviews


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アレクサンドル・デュマの未邦訳戯曲『シャルル七世とその重臣たち』 しんの(C.Clarté) @shinno3

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