第五幕 ベランジェール・5場

◯ベランジェール、ヤクーブ、イザベル、アンドレ、従騎士、家臣と召使い


ヤクーブ、短剣を手に後ろ向きで入ってくる:

「さあ逃げよう! 人が来る!」


伯爵、体を引きずって立ち上がりタペストリーを持ち上げる:

「私を殺したのはおまえか、ヤクーブ……!」


ベランジェール、伯爵の視界から彼女を隠そうとするヤクーブの肩に両手をかけ、伯爵に見せつけるように膝をつかせる:

「彼じゃないわ……、私よ!」


伯爵:

「ベランジェール……!」


イザベル、庭を横切る:

「誰か助けてー……!」


伯爵、瀕死に:

「ああ……! ああ……!」


ヤクーブ:

「さあ、悪い女よ、すべてを忘れさせてくれ。本当に悪いことをやらせたのだから! 一緒に来てくれ! 来ると約束したんだから……。俺はあなたを待っている……。これで永遠に俺のものだ……」


ベランジェール、伯爵を見ながら:

「あと少し……。そうすれば、私はあなたのものになる」


ヤクーブ:

「ああ、見て! 彼女の悲鳴を聞いてみんなが駆けつけてくる……、気をつけて! もう逃げられない、時間がない……。あいつらが来るぞ、ベランジェール……!」


ベランジェール:

「待って、もう少し待って……」


ヤクーブ:

「ああっ! 早く来てくれ! この待ち時間は命取りになる! 中庭がもういっぱいだよ、ほら……。だから早く来てくれ……!」


ベランジェール、膝をつく。


ヤクーブ:

「何をしているんだ? これがあなたの信仰を守る方法なのか? ベランジェール、聞こえているのか? こっちへ来るんだ……」


ベランジェール、事切れる:

「私はここよ……! 一緒に連れて行って!」


ベランジェール、伯爵にキスをしたまま倒れる。


ヤクーブ、ベランジェールの髪をつかんで頭を持ち上げる:

「ああ、呪われている! 彼女の顔色は真っ青じゃないか! 心臓は……」


ヤクーブ、ベランジェールの胸に手を当てる:

「もう叩いてない! 彼女が手に持っているのは……」


ヤクーブ、ベランジェールが持っているボトルを拾う:

「瓶が空っぽだ!」


イザベル、駆け上がってきて家中の人に囲まれる:

「助けてください! ああ、早く来て! こっちよ!」


アンドレ:

「なんてことだ! 伯爵が死んだのか。……そして伯爵夫人も!」


ヤクーブ:

「二人とも死んだ!」


アンドレ:

「俺たちの主人だぞ……!」


全員、伯爵に向かって頭を下げる:

「ああ……!」


ヤクーブ:

「この地上に生まれながら、犬のように世襲の鎖に縛られて、開かれた墓の近くで叫び続ける者たちよ! ヤクーブはもう行く……」


伯爵からもらった羊皮紙を取り出し、それを見せる。


ヤクーブ:

「俺は自由の身だ! ……そして、砂漠に帰っていく」






※アレクサンドル・デュマの戯曲『シャルル七世とその重臣たち』全五幕完結。次回は、訳者あとがきです。本書の解説とオペラ版について、ネタバレ感想など。

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