そうだ、京都へ行こう……
大隅 スミヲ
【三題噺 #11】「GW」「東」「井戸」
旅に出たい。
急に思い立ったことだった。
ここ数年、新型コロナウイルスの影響もあり、私は旅を自粛していた。
そろそろ旅に出ても大丈夫なのではないか。
そんなことを思いながら、旅行雑誌をパラパラとめくった。
温泉で癒されるのもいいし、美味い料理を食べるのでもいい。もちろん、大自然の中で英気を養うというのもいい。
自宅のソファーに座りながら雑誌を眺める。
いまどき、なんで旅行雑誌なんか読んでいるの。インターネットで検索すれば色々と最新の情報がわかるのに。以前、友人に言われたことがあった。もちろん、そんなことは重々承知である。ネットがものすごい便利であることも、最新の情報を入手できることも。
だが、旅行雑誌には旅行雑誌の良さがある。情報が少し古くてもいい。私はこの旅行雑誌を読んでいる時のワクワク感が大好きなのだ。
「そうだ、京都へ行こう」
某CMのような独り言をつぶやいた私は、旅行雑誌の京都のページを開いた。
書かれているのは、清水寺や三十三間堂といったメジャーな観光地ばかり。そこはすべて行っている。もっとマイナーなところに行きたいのだ。
ちょうど世間はGWに入る。京都は激混みとなるだろう。
それに外国人観光客の受け入れを再開させているため、京都が混まないわけがない。
どうしようか。そう思いながら、ページをめくる。
京都穴場スポット。そんな見出しが目に入る。その中でも一番小さく取り上げられていたのが、
誰それ……。
それが率直な感想だった。
六道珍皇寺のところに書いてある説明文によると、小野篁という人物は、平安時代初期の人で、昼間は朝廷の官吏として働き、夜は閻魔大王のところで仕事をしていたという伝説が残る人物であり、その地獄へ行くために使っていたとされる井戸が六道珍皇寺には残されているとのことだった。
興味が出た。こんな記事を読んでしまったら、行くしかないだろ。
私はすぐに京都のビジネスホテルで宿泊予約を済ませ、京都旅行のプランを練った。
ちなみに小野篁という人物は、歌人でもあるそうだ。
色々と小野篁という人物について興味を抱き調べてみると、もう面白さしかないような人物だった。
身長六尺二寸(約188cm)の
漢詩文に関しては平安初期では指折りの名人といわれ、和歌に関していえば「百人一首」の他「古今和歌集」などにも載るような名歌を残している。
ただ一筋縄ではいかない人物だったようで、野相公、野宰相、その反骨精神から野狂などという異名までも持っており、遣唐使のことで朝廷を批判したことから隠岐国への流罪ともなっている。
こんな波乱万丈な人物が、どうして日本史で語られないのだ。
そう思ってしまうほどに小野篁という人物は面白かった。
京都に着いて目的の六道珍皇寺に向かったわけだが、そこはまるで別世界のような場所だった。事前に色々な情報を詰め込んでいたためにそう感じたのかもしれないが、少なくとも私はそう感じていた。
観光地・京都であるにも関わらず、辺りはしんと静まり返っており、厳かな雰囲気すらも感じさせるのだ。
この辺りはちょうど平安京の東側に位置する場所だ。
目的の六道珍皇寺は、思っていたよりも立派な寺だった。
入口のところには六道辻という石碑がある。
そして、篁が地獄へ行く際に入っていったとされている井戸をしっかりとこの目に収めてきた。
ふと、井戸の奥にある木々の間から
え、小野篁?
そう思った瞬間、その姿は消えてしまった。
もしかすると、篁は1000年以上経ったいまでも、地獄で閻魔大王の補佐をしているのかもしれない。
そんなことを思わせる出来事だった。
※ ※ ※ ※
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本物語に出てきた小野篁を主人公とした、歴史ファンタジー小説「TAKAMURA(」を連載しています。
https://kakuyomu.jp/works/16817330655311375914
もし、興味を持っていただけたら読んでいただけると嬉しいです。
そうだ、京都へ行こう…… 大隅 スミヲ @smee
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