幕間×寒村×不死鬼 後編

「金皇!」

「おうよ!」


 金棒を振り回しながら、二匹の鬼がササリスに襲い掛かる。


「くっ」


 鋼より硬く、刃物より鋭い糸を多重に走らせて、ササリスが応戦するが、不死身の相手はたちどころに再生してしまう。


「わはは! いい加減学習しろ小娘!」

「永遠の命を手にした我らに、もはや敵などいない!」

「喧嘩を売る相手を間違えたこと、あの世で後悔するんだな!」


 と、手足を切り飛ばされた鬼たちが、必死に胴体から四肢を伸ばしながら遠吠えする。


「あのさ、不死の相手の仕方ならいろいろあるんだよね。たとえば」


 その、いままさに復元を試みている肉の断面を、切断能力を著しく落とした糸が縛り上げる。

 圧力を加えられた断面は筋繊維が満足に盛り上がるだけの余裕がなく、再生しようとしたそばから肉が弾けている。


「こうして、再生するそばから負傷する状態にしてあげてもいいし」


 ササリスは懐から一本の注射針を取り出した。


「睡眠薬を絶えず投与し続けたっていい」

「あ、あの……」

「まさか、そんなこと、本当に実行しませんよね……?」


 急に低姿勢になった二匹の鬼に対し、ササリスは素敵な笑顔を送る。


「えへ?」


 その笑顔は何よりも雄弁に語っていた。

 ササリスという女の本質を。

 やると言ったら必ずやるのだということを。


「あたし、前々から不老不死には興味があってさ。ちょうど検体が欲しかったところなんだー。じゃ、まず一本目からいってみよっか」


 二匹の鬼が顔を蒼白にする。


「ま、待て! 我らが悪かったから! 謝るから!」

「もう二度とこの村に迷惑かけないから!」

「ふぅーん。他の村に移って、同じことを繰り返すんだ?」

「いや、あの……ごめんなさい、もうしません。これからは周りに迷惑かけずに生きていきます」

「あはは! 迷惑をかけずに? 何の益も生み出さない鬼を野放しにするより、不死の研究を進める方が、よっぽど世のために貢献できると思わない?」

「ひっ、で、でしたら! 必ずや、世のためになる行いをします! 不死の研究がもたらす以上の成果を、必ず!」


 格付けは完了した。

 もう、この二匹の鬼がササリスに逆らうことはないだろう。


「それで? 自分の命を救うための条件なんだから、そんなものじゃ足りないよね?」


 これじゃ、どっちが鬼かわからないな。


  ◇  ◇  ◇


 結局、血も涙もないような契約を交わさせた後、ササリスは鬼二匹を放逐した。


「ありがとうございます、旅のお方……! 皆の者! 盛大に客人をもてなすのじゃ!」

「ウオォォォォッ!」


 という感じで、村はお祭りムード。

 立ち寄ったときのお通夜な空気が嘘みたいに、やいのやいののどんちゃん騒ぎだ。


「意外だったな」


 率直な感想をササリスにぶつけると、彼女は口を尖らせた。


「あたしだって、困ってる子に手を差し伸べるくらいするよ!」

「そっちじゃなくて、鬼を見逃した方だよ」

「あー」

「俺はてっきり、容赦なく検体にするつもりかと」

「それができればよかったんだけどねぇ」


 注射針を取り出して、ササリスがあっけらかんと言う。


「これ、ただの栄養剤。睡眠薬なんて持ってないよ」


 え。てことは、さっきの。


「そ、ハッタリ」


 にかっ、といい笑顔でササリスが言うと、ヒアモリが感嘆の声をこぼした。


「すごいですササリスさん! 私、全然気づきませんでした!」

「ふふん、そうでしょそうでしょ」

「すごいです! すごいです!」

「そうでしょそうでしょ!」

「すごいですすごいです」


 無限ループやめろ。


「ま、仮に睡眠薬を持ち合わせていたとして、やっぱり駄目だったと思うけどね」

「どういうことですか?」

「耐性がついて行くからさ。最初はよくても、そのうち睡眠薬が効かない体になる可能性がある。ううん、睡眠薬だけじゃない。たとえば痛覚なんかも、次第に感じなくなるかも」


 今回の、傷口を締め上げる方法だって同じだとササリスは言う。

 たとえば筋力が衰えれば再生する余裕ができるかもしれないし、そもそも縄抜けされる可能性もある。


「だから、不死を捕らえ続けるのは現実的じゃないのさ。生物ってのは環境に適応するものだからね。むやみに殺したり傷つけたりして、その原因に対する耐性を会得させたら手も付けられなくなる」

「あ、だからその前に、契約でがちがちに制約を付けて……」

「そういうこと」


 なんか、こうみえてすごい、しっかり考えてるんだよな、ササリスって。

 いっつもお茶らけた雰囲気醸してるのに。


「あ、そうそう!」


 ぽん、と手をたたいて、ササリスが今日一番の笑顔を見せる。


「これがあいつらの持ってた財布なんだけど、すごいよ! 金銀財宝がいっぱい!」

「おい」


 ちゃっかり盗んでんじゃねえよ。

 そしてそれを大層嬉しそうに報告するな。


 困ってる村人を助けました、だけで済ませたら美談なのに。


(どうして、上がった評価をいちいち自分で落としに行くかなぁ)



  ◇  ◇  ◇

 あとがき


 本日二巻が発売されました!

 是非お手に取ってください!

 そしてそのままご購入ください!


 あと、カクヨムにて連載中の新作

『モンスターがあふれる世界で最強にならないと生き残れない転生』

 →https://kakuyomu.jp/works/16818093079995970836

 もよろしくお願いします。

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かませ犬転生(原題:たとえば劇場版限定の悪役キャラに憧れた踏み台転生者が赤ちゃんの頃から過剰に努力して、原作一巻から主人公の前に絶望的な壁として立ちはだかるようなかませ犬転生) 一ノ瀬るちあ@『かませ犬転生』書籍化 @Ichinoserti

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