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『かませ犬転生』2巻 発売のお知らせ
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かませ犬転生2巻がいよいよ明日7/17(水)発売となります!
ありがとうございます!
あー、いまちょうど作品フォロー頂きましたけどね、こんなんなんぼあってもいいですからね。
あとついでに書籍版についても購入していただけるとめちゃんこ嬉しいです。
いっぱい加筆して既に読んでる人も楽しめる点、イラストがついてる点、私を応援できる点。
どれか一つでもいいのでピカンときたらライトナウで購入お願いします! 吉日とは思い立った日と心得たり……。
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https://books.rakuten.co.jp/rb/17896483/?l-id=search-c-item-text-01■□ おまけSS【アンティークコイン】 □■
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ある日のことだった。
立ち寄った店でササリスが店主相手に値切りを行っているとき、くいくい、と俺の袖を引く者がいた。
毛先にかけて階調的に緋色がかった髪色が特徴の少女、ヒアモリである。
「クロウさん、ササリスさんは何をしているんでしょうか?」
触れて差し上げるな。
「お待たせー」
商品を買い終えたササリスが合流する。
「ササリスさん、どれくらい安く買えたんですか?」
「いやぁ、なかなかやり手の店主だったからね。ほとんどまけてもらえなかったよ」
「あの、費やした時間に見合う、効果あるんです、か?」
「何言ってるの!」
ササリスの目がくわっと開かれた。くわっと。
本気で驚いてる感じだった。
声量が急に跳ね上がった。
予想できた反応ではあるけど、想定を超えてきたから俺がちょっとびくってしてしまった。
恥ずかしい。
「ヒアモリちゃん、お金は大事なんだよ?」
「そ、それはわかってます、けど」
「わかってない。わかってないよ……。いい?」
ササリスが騒がしいジェスチャーで文字魔法をせっつくものだから、俺はため息を吐いて、【机】と【椅子】を繰り出した。
こういう使い方するのダークヒーローっぽさのかけらも無くて嫌なんだけどな。
「ここに、二枚の硬貨があります」
ササリスが机に硬貨を並べる。
「どちらもこの地域で使われるお金で、同じ金貨。だけど、わかる?」
「あ、模様が違う?」
「そう! そうなの!」
エールを煽ったようなテンションで、ササリスが「わかってるねぇ!」と嬉しそうに語る。
「硬貨ってのは、その土地の特色が色濃く表れるの。この地域はコインの絵柄は、造られた年の国王。これがどういうことかわかる?」
ヒアモリが助けを求めるように俺を見上げてきた。
ごめん、こうなったササリスは俺にも止められない。
ヒアモリから切り出した話だ、最後まで付き合ってやってくれ。
「そう……! こっちの硬貨は、急逝により在位期間がたった一ヶ月しかなかった国王ミカ・ハーネットのアンティークコイン。もう二度と製造されないレア中のレアものなんだよ。もし手持ちのお金にこれしかなくなったらどうするの? 使えないよね? 使えないんだよ。万が一にもそういう可能性をなくすためにも、あたしは常日頃から節約と値切りを心がけて――」
それからも、ササリスはしばらくしゃべり続けた。
ヒアモリは途中から頭をくらくらさせていた。
ぷすぷすという音が聞こてきそうだった。
「とまあ、この硬貨の希少性はわかってもらえた?」
「は、はいっ!」
もうこれ以上はごめんだ、と言わんばかりのいい返事がヒアモリからさく裂した。
「よし! じゃあ次はこっちのコイン! これは東洋で使われてるコインなんだけど、龍の絵柄が彫られていて、どうして龍かというと、その国では一番お偉いさんを天と同一視する風習があるの。そこで――」
「ク、クロウさん……っ」
ヒアモリが涙目で俺に助けを求める。
ごめんな、ヒアモリ、助けてやりたい気持ちはやまやまなんだ。
けど、そうなったらササリス、気が済むまで話すのをやめないんだよ。
「クロウさんの魔法なら、造れるんじゃ、ないですか?」
あっ。
「…………ああアぁァァあぁァぁっ! 確かに!」
ヒアモリィ! ササリスに余計なこと気付かせるんじゃないよッ!
「師匠っ、師匠っ」
まずい。
これはまずい。
確かに、文字魔法で歴史上存在した代物を再現することは可能だ。
だが一度前例を作ってしまえば、ササリスは際限なくそれを要求してくる。
俺の文字魔法は、そんなちゃちなことに使うための代物じゃねえんだよッ!
くっ、どうにかササリスを説得する方法を考えないと。
そうだな、たとえば。
「正気か?」
努めて平静を装って、厳格な声音でササリスに問う。
「アンティークコインの価値はなんだ。二度と製造されない希少性じゃないのか?」
「うっ、それは、確かに、そう、だけど」
「お前がやろうとしていることは金に対する冒涜だ。本当に、それでいいのか」
ササリスが返答に困窮している。
畳みかけるならいま――
「じゃ、いま製造中のコインでいいや」
「――え?」
「それなら絶対数が増えても、『ちょっと製造量増えたんだな』、で済むでしょ?」
……。
い、いや、ほら、えーと、あれだ。
「ダメだ。物の価値は、金の流通量と物の流通量によって決まる。金を増やせば、相対的に金の価値が下がる。やはり冒涜的だ」
「むぅ、確かに」
どうにか、言いくるめに成功した、のか?
(つ、疲れた)
俺がササリス相手に何とか引き分けに持ち込んだ横で、ヒアモリはほっと息をついていた。
単独勝利を収めたのは間違いなく彼女だった。